
ジョージアの銀行は「地味に強い」
トビリシで、私はこれまで何十件と、日本の方の銀行口座開設に立ち会ってきました。窓口に座り、担当者とやり取りをし、英語とジョージア語の書類に目を通す。そういう現場に、もう8年以上います。
その私が、最近ふと思うことがあります。
「この国の銀行は、どうしてこんなに静かなのだろう」と。
日本のニュースにはまず出てきません。派手な広告も打ちません。それなのに、決算を開くたびに過去最高益を更新している。利益率は、正直に言って、日本のメガバンクが見たら腰を抜かすような水準です。
今日は、その「地味なのに、やけに強い」という違和感を、一本の糸をたぐるようにほどいてみたいと思います。数字は少し出てきますが、ひとつずつ、やさしい例えを添えて進めます。
まず、どれくらい「地味に強い」のか
国全体の数字から見てみます。ジョージアの中央銀行(日本でいう日本銀行にあたります)のトップは、2026年初めの時点で、こう述べています。
銀行システム全体の不良債権の比率は、わずか2.47%。歴史的に見ても最も低い水準。自己資本(銀行が自前で持っている元手)は厚く、資金の余裕も大きい——と。
そして銀行業界団体の見通しでは、2025年、商業銀行全体の利益は約33億ラリ(ラリはジョージアの通貨)に達する見込みでした。1〜11月だけで約29.8億ラリを稼ぎ、前年同期より増えています。小さな国(人口はおよそ370万人、日本の静岡県ほど)の銀行が、です。
強さの正体①──利ざやが、とにかく厚い
ここから収益構造の分解に入ります。銀行の儲けの土台は、昔も今も「利ざや」です。安く預かって、高く貸す。その差が稼ぎになります。
この厚みを示すのがNIM(純金利マージン)という指標です。ジョージア二大銀行の直近(2026年4〜6月)を見ると、TBC銀行はグループ全体で7.1%、バンク・オブ・ジョージア(後述しますが現在はライオン・ファイナンス・グループと改称)は6.3%。
日本の銀行のNIMはおおむね1%前後です。つまりジョージアの銀行は、同じ100万円を動かしても、日本の6倍から7倍の利ざやを得ている計算になります。
なぜこれほど厚いのか。金利そのものが日本より高いことに加えて、この国が長く「ドル化」——国民が自国通貨よりドルを信用し、ドルで預金・取引してきた歴史——から、少しずつ自国通貨ラリでの貸し借りへ移ってきている流れも効いています。高めの金利で、自国通貨の融資が伸びている。利ざやには追い風です。
強さの正体②──たった2行で、ほぼ市場を分け合っている
次に、効率です。利ざやが厚くても、経費がかさめば利益は残りません。ここでも、ジョージアの銀行は異様に優秀です。
コスト/収入比率——稼いだ収益のうち、人件費や店舗費などの経費がどれだけを食うか。低いほど筋肉質です。直近でTBCが38.3%、ライオン・ファイナンスは34.4%。欧州の大手銀行はだいたい55〜65%ですから、頭ひとつどころか、二つ抜けています。
その理由を、私は現場で肌で感じています。この国の銀行は、実質的にバンク・オブ・ジョージアとTBCの二強で市場の大半を握っています。競争相手が少ないと、無理な安売りをしなくて済む。価格の主導権を握れる。だから利ざやは厚いまま、経費は締まる。きれいに噛み合っています。
強さの正体③──ROEは、世界の銀行でも上位
利ざやが厚く、経費が締まれば、当然、株主から見た効率も跳ね上がります。それを示すのがROE(自己資本利益率)です。
TBCのROEは約23.5%。しかも「23%超え」を14四半期連続、つまり3年半にわたって続けています。ライオン・ファイナンスに至っては直近27.2%。国全体の銀行システムでも22.4%です。
強さの正体④──貸したお金が、ちゃんと返ってくる
どれだけ利ざやが厚くても、貸した先が焦げ付けば元も子もありません。けれど、ここも堅い。
不良債権比率は、ライオン・ファイナンスで2.1%、TBCのジョージア事業で2.7%、国全体で2.47%。貸し倒れのために毎年あらかじめ差し引く費用(コスト・オブ・リスク)も、ジョージア国内では1%未満に収まっています。背景には、2025年に約7.5%という高い経済成長があります。景気がいいから、借り手もきちんと返せる。
住宅ローンも戻ってきています。2026年1〜3月は件数で前年比+20%、金額で+34%。頭金の最低ラインが15%から10%に下がったことも後押しし、現場でも「買う人が増えた」という空気を感じます。
強さの正体⑤──自己資本が厚く、情報が開かれている
銀行の安全性は、最後は自己資本の厚みに行き着きます。TBCのジョージア事業で見ると、中核的自己資本(CET1)比率は16.7%、総自己資本比率は22.2%。いずれも当局が求める最低ラインを大きく上回っています。
そして見落とされがちですが、二大銀行はどちらもロンドン証券取引所に上場し、英国の主要株価指数(FTSE250)にも採用されています。英国基準の厳しい開示を毎四半期こなしている。新興国の銀行でありながら、決算の透明性は先進国並みです。私がこれだけ細かい数字を語れるのも、彼らが隠さず出しているからにほかなりません。
では、弱点はどこにあるのか
ここまで強さばかり並べました。けれど、良い面だけを見るのは投資ではありません。構造的な弱点も、同じ目線で分解しておきます。
ひとつは、この強さが「二社への集中」の裏返しだということ。市場を二行で分け合う構造は、効率が高い反面、どちらかに何か起きたときの影響も大きい。
もうひとつは、成長の限界を海外に求めている点です。国内市場が小さいため、TBCはウズベキスタン、バンク・オブ・ジョージアはアルメニア(この拡大を機に社名をライオン・ファイナンス・グループへ改めました)へ出ています。ここは成長の源であると同時に、リスクの置き場でもあります。実際、TBCのウズベキスタン事業の不良債権比率は10.6%と、国内とは別世界の高さです。
そして何より、国そのものの不安定さ。ジョージアはEU加盟をめぐる政治的な緊張を抱え、情勢が揺れる局面があります。銀行がいくら健全でも、国のカントリーリスクからは逃れられません。
派手さがないことと、危ういこと。この二つは、同じでしょうか。私は、違うと考えています。
私はジョージアの銀行を、資産を「増やす場所」ではなく「守り、散らす場所」のひとつとして見ています。
・ジョージアはEU加盟プロセスなどをめぐり政情が揺れる局面があり、国そのものにカントリーリスクがあります。
・市場が二行に集中している構造は、効率が高い一方で集中リスクでもあります。
・海外展開(ウズベキスタン・アルメニア等)は成長の源であると同時に、不良債権の高い地域も含みます。
・高い利ざやは高金利環境に支えられている面があり、利下げ局面では利益が圧縮される可能性があります。
・預金保険の範囲・通貨(ラリ/ドル)の選択など、口座を持つ側にも確認すべき点があります。資産配分はご自身の状況に応じてご判断ください。
円に偏った資産の一部を、政情は揺れても銀行システムそのものは堅い国に、静かに置いておく。口座は、その避難先の一つになります。もし銀行株(バンク・オブ・ジョージア=ライオン・ファイナンス、TBC)に乗るなら、株価の勢いではなく、今日分解したような事業の中身——利ざや・経費率・不良債権・自己資本——を自分の目で確かめてからにする。私はいつも、そうしています。
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出典
ジョージア国立銀行(NBG)「商業銀行の融資・預金動向」および住宅ローン統計(2026年第1四半期)
ジョージア銀行協会(David Rusia)セクター利益見通し(2025年)
TBC Bank Group PLC「2Q・1H 2026 業績レポート」(2026年)
Lion Finance Group PLC(旧 Bank of Georgia Group PLC)「2Q 2026 業績」(2026年)
