
──自己資本100万GEL・フリーフロート25%、そして“主役が株式ではない”という現実
「ジョージアで会社を上場させることはできますか」。最近、弊社に寄せられる相談のなかで静かに増えているテーマだ。法人税15%、配当課税の繰り延べ、親EU・親米の制度環境——この国を資金調達の舞台として意識する経営者は確実に増えている。結論から言えば、上場の“制度”は存在し、要件も新興国としては明快だ。ただし、その先にある「流動性」という現実まで理解しておかないと、上場はゴールではなく出発点にもならない。今回は、トビリシ証券取引所(Georgian Stock Exchange、以下GSE)の上場要件を実務の目線で分解する。
目次
ジョージアに上場市場はあるのか──まず全体像
ジョージアで組織化された証券市場は、実質的にGSEただ一つだ。GSEは米国国際開発庁(USAID)の支援を受けて設立され、法制度も米国の専門家が起草に関わった経緯を持つ。監督官庁はジョージア国立銀行(National Bank of Georgia、NBG)で、証券市場法(Law of Georgia on Securities Market)のもと、目論見書の承認や発行体の開示を一手に担う。ライセンスを受けた市場参加者は、証券取引所・中央証券保管機関・証券会社・独立系の登録機関で構成される、こぢんまりとした生態系だ。
まず押さえるべきは、GSEの上場には「A区分」と「B区分」の2つのリーグがあるということ。数値のハードルが高い順にA、Bとなる。以下、主要な要件を縦に並べて確認する。
B区分:500千GEL(約50万GEL)以上
※1GEL=約55〜56円(時期により変動)。A区分でおよそ5,500万円規模の自己資本が目安となる。
B区分:10%以上/浮動株の時価総額50千GEL以上
※発行体の5%以上を保有する大株主、国・自治体・公法人、役員・従業員の保有分はフリーフロートから除外して計算する。
B区分:時価総額500千GEL以上/発行株式5,000単位以上
※上場後3か月間は、発行価格をもとに時価総額を算定できる経過措置がある。
※非事業法人や、申請年に設立された会社にはこの要件は適用されない。設立間もない成長企業にも道が開かれている。
・年次監査済報告書
・半期報告書
・直近の未監査報告書
の提出が必須。報告義務のある企業は、過去3年分の年次報告書も求められる。
申請から取引開始まで──審査プロセスと期間
上場申請は、発行体または取引所会員(証券会社)がGSEのCEO宛に申請書と必要書類一式を提出することで始まる。中核となる提出物は次のとおりだ。
・定款の公証済写し/企業登録簿の抄本
・過去3年分の年次報告書・定期報告書(報告義務企業の場合)
・フリーフロート比率と時価総額の証憑
・独立監査人が証明する自己資本の額
・取締役会等の権限ある機関の決議(公証済)、経営陣名簿
・証券識別番号(ISIN)の付与証明、中央預託機関への口座登録申請書の写し
審査は、上場サービス部門が書類受領後おおむね5営業日以内に行う(追加情報を求めた場合は、その提出時点から期限が再計算される)。最終的な上場可否は監査役会(Supervisory Council)が決定し、取引許可はCEOが行う。申請者には決定から1営業日以内に通知され、取引所は承認・否認の情報を公表する。制度上は、書類さえ整っていれば、審査そのものは驚くほど短期間で進む設計になっている。
見落とされがちな論点①──“配当・譲渡益非課税”という設計
ジョージアの資本市場制度には、投資家目線で見逃せない一手が組み込まれている。フリーフロート比率が25%を超える上場株式については、配当およびキャピタルゲインに対する課税が免除されるという設計だ。つまり、A区分の浮動株要件(25%以上)は単なる上場のハードルではなく、投資家にとっての税制優遇のトリガーも兼ねている。発行体として「誰に、どれだけ株を持たせ、どれだけ市場に出すか」という資本政策が、そのまま投資家の手取り利回りを左右する構造になっている。
見落とされがちな論点②──なぜ大型株はロンドンへ向かうのか
ここが、制度の表面だけを追うと見落とす最重要ポイントだ。ジョージアを代表する大企業——Bank of Georgia、TBC Bank、Georgia Capital——の主要な株式上場先は、トビリシではなくロンドン証券取引所(LSE)である。理由はシンプルで、国内市場の流動性が薄いからだ。GSEは「ジョージア唯一の組織化された市場」ではあるが、株式の売買高は限定的で、時価総額や取引高といった深度を示す数値は乏しい。本格的な資金調達と株式の流動性を求める企業は、より深い投資家層を持つ国際市場を選ばざるを得ない。
この事実は、ジョージア上場を検討する際の設計思想を根本から変える。「知名度やブランドのための国内上場」なのか、「本気の資金調達のための国際上場」なのか。目的が後者なら、GSE上場は通過点に過ぎず、最初からLSEなど海外市場を見据えた財務・開示体制の構築が必要になる。
いま動いているのは株式ではなく“社債”市場
では、ジョージアの資本市場に見るべきものはないのか。そうではない。近年、確かな成長を見せているのは株式ではなく社債(コーポレートボンド)市場の方だ。Galt & Taggart(Bank of Georgia系)やTBC Capitalといった現地アレンジャーが、USD・EUR・GEL建ての社債発行を次々と手がけ、NBGも資本市場の育成策として社債市場の潜在成長性を繰り返し強調している。短期(6か月)社債のような新しい商品も登場し、発行体の裾野は着実に広がっている。
ちなみに社債のGSE上場には、株式のようなフリーフロート要件は課されない。資金調達の実務としては、株式上場よりも社債発行の方が、いまのジョージアでは現実的な選択肢になり得る——これは専門家として強調しておきたい視点だ。
関連サービス|ジョージアで日本語対応の会計事務所
出典:ジョージア証券取引所(GSE)上場規則/ジョージア証券市場法/ジョージア国立銀行(NBG)資本市場関連資料/米国務省 投資環境報告書(2025年)。いずれも2026年10月時点で確認した公表情報に基づく。
