
10月24日、ナイジェリアのティヌブ大統領が、2027年2月の選挙に向けて選挙運動をスタートさせました。これからナイジェリアは「選挙の季節」に入ります。でも、このニュースを見て私が最初に思ったのは「どっちが勝つんだろう?」ではありませんでした。投資家として大事なのは、実はもっと別のところにあるからです。
このコラムでは、少し専門的な言葉のあとに必ず「例えば」でかんたんな説明を添えています。用語は飛ばして“例えば”だけ読んでも分かるようにしています。
「どっちが勝つか」は、実はあまり関係ない
いきなりですが、正直に言います。今回の選挙、「どの候補が勝つか」は、私たちの投資にはあまり関係ないと見ています。
なぜなら、対抗馬がまとまっていないからです。前回2位・3位だった有力者が手を組んではいるものの、「誰が代表になるのか」すら決まっていません。反対に、今の大統領の側には、他の政党からも有力者が次々と移ってきています。現地の空気を見ている限り、現職がかなり有利です。
ということは、「大統領が代わって、国のルールがガラッと変わる」という、海外投資でいちばんこわいことが起きる可能性は、今のところ低い。だからこそ、見るべきは候補者の顔ではないのです。
では、現政権は勝てる? 政策は続く? ──私の見立て
「とはいえ、本当に現職が勝つのか。勝ったとして、今の政策はちゃんと続くのか。その確率は?」──ここが一番気になるところだと思います。あくまで私個人の見立てですが、正直にお答えします。
▶ 現政権は勝てるのか? → 私の感覚で「6〜7割がた有利」
理由は3つあります。1つめは、野党が3人(アティク氏・オビ氏・クワンクワソ氏)に票が割れていること。2つめは、他党の有力者が与党側へ次々と移っていること。3つめは、現職という立場そのものの強さ(組織・資金・知名度)です。一方で、物価高への国民の不満は根強く、もし野党が「たった1人の候補」に一本化できれば、番狂わせの可能性は残ります。
例えば、「6〜7割」とは、同じ選挙を10回やったら6〜7回は現職が勝つ、くらいのイメージです。確実ではないけれど、かなり有利。そんな温度感だとお考えください。
▶ 勝ったら政策は続くのか? → 「大枠は続く公算が高い(7〜8割)」
もし現職が勝てば、今の改革路線(補助金廃止・変動相場)は大枠で維持される可能性が高いと見ています。理由は、ここまで痛みに耐えて進めた改革を今さら引き返すと、かえって大きなコストがかかるからです。IMF(国際通貨基金)や海外投資家からの信認も、この路線を続けることが前提になっています。ただし、選挙の前後だけは人気取りのバラまきで“一時的に”ゆるむ場面があり得ます。そこは警戒しています。
例えば、一度やめた「ダイエット」を途中でやめると、リバウンドでもっと苦しくなりますよね。国の改革も同じで、ここまで我慢して進めた以上、途中で戻すほうが痛い。だから「大枠は続く」と見ているのです。
※これらの確率は、選挙結果や政策を保証するものではなく、現地の状況をふまえた私個人の見立てです。情勢の変化で見方は変わり得ます。
私が選挙のときに必ず見る、3つのこと
とはいえ「政策が続くかどうか」は、始まってみないと分かりません。では、その“続くサイン”を、私たちはどこで見分けるのか。公約ではなく、その国の「お金のまわり方」に表れます。少し専門的になりますが、次の3つを順番にご説明します。
① 変動相場制を、後戻りさせないか
ティヌブ政権は、通貨「ナイラ」の為替を固定相場制(ペッグ)から変動相場制(フロート)へ移行しました。国が為替レートを人為的に支えるのをやめ、市場の需給に委ねたのです。導入直後はインフレが加速しましたが、割安になった通貨をきっかけに海外からの資金流入(資本流入)が戻り始めました。選挙前は票のために為替を無理に支え、固定相場へ逆戻りする誘惑が強まります。ここが改革の分かれ目です。
例えば、八百屋さんの値段を思い浮かべてください。キャベツの値段を「お店が市場に合わせて自由に決める」のが変動相場。「国が“1個100円”と決めて、何があっても買い支える」のが固定相場です。固定はラクに見えますが、無理が続かず、ある日ドカンと値崩れしがち。だから「市場に任せ続けられるか」を見るのです。
② 海外からの送金と外貨準備が、増え続けているか
ナイジェリアには、海外で働く国民が母国へ送る海外送金(ディアスポラ送金)が大量に入ります。政府が送金の仕組みを整えた結果、月あたりの正規送金は改革前の約2.5億ドルから、2026年7月には約9.47億ドル(目標は月10億ドル)まで増えました。あわせて外貨準備高(国が保有する外貨の蓄え)も、9月時点で約546億ドルまで積み上がっています。
例えば、ひとつの家庭に置きかえると分かりやすいです。海外へ出稼ぎに行った家族からの「仕送り」が毎月増えていて、さらに家の「ドル貯金」も厚くなっている状態。これなら家計(=通貨ナイラ)は当面安心、というわけです。逆にこの2つが細り始めたら、要注意のサインになります。
③ 選挙コストで、財政規律がゆるまないか
選挙には巨額の費用がかかり(選挙管理委員会は約6.45億ドルの予算を要請)、政治家は人気取りのバラまき(財政規律のゆるみ)に傾きがちです。ここで歳出が膨らみ、いったんやめた補助金が復活すれば、改革は逆戻りします。投票日が2月20日で断食月(ラマダン)と重なる可能性も指摘されており、日程をめぐる政治の駆け引きも注視しています。
例えば、選挙で勝ちたいあまり、ご近所中におごりまくって家計が火の車になるお父さん、とイメージしてください。目先は喜ばれても、あとで家計(国の財政)が苦しくなる。そうならないか、を見ています。
これが、私たちの投資にどう関係するの?
弊社ではナイジェリアの国債(国にお金を貸して利息を受け取る仕組み)をご案内しています。魅力は、年15%前後という高い利回り。日本の預金では考えられない数字です。ただし、ここで大切なのが為替リスクという考え方です。この15%は、あくまでナイラ建て(現地通貨で受け取る)利回りであり、円に戻したときの実質的なリターンは、為替の動きを差し引いて考える必要があります。
例えば、100万円ぶんをナイジェリア国債に入れて、1年で15%=15万円の利息がついたとします。うれしいですよね。でも、その同じ1年で、ナイラの値段が円に対して15%下がってしまったら? 円に戻した瞬間、せっかくの利息はほとんど消えてしまうのです。「利回り15%」の数字だけでは、本当の儲けは分からない、ということです。
実際、ナイラは10月21日の「1ドル=1,337ナイラ」から、翌22日には「1,365ナイラ」へ。たった1日で約2%も下がりました。18か月ぶりの大きな下げです。だからこそ、「誰が大統領になるか」よりも、「変動相場が維持されるか」「海外からお金が入り続けているか」のほうが、私たちの“手取り”にとってずっと大事なのです。
私が見るのは「どっちが勝つか」ではありません。勝ったあとも、お金がちゃんと回り続けるかどうかです。
⚠ 留意点
ナイジェリア国債の利回りはナイラ建てのため、通貨が下がると円換算の実質リターンが目減りするリスクがあります(1日で2%ほど動くこともあります)。本コラムは特定の商品の売買をおすすめするものではありません。記載の数字や制度は執筆時点のもので、今後変わる可能性があります。
💡 投資家への視点
私がナイジェリアを見るとき、追いかけるのは選挙のニュースよりも、毎月の「送金額」と「外貨準備高」です。この2つが増えている間は、通貨に安心感があります。逆にここが減り始めたら、利回りが高くても買う量を控えます。そしてこれは、遠い国の話ではありません。「1つの国・1つの通貨にすべてを預けない」──ナイラに言えることは、そっくりそのまま“円”にも言えると、私は考えています。
選挙というと、どうしても「どっちが勝つか」に目がいきます。でも投資家にとって本当に大事なのは、勝ったあとも改革が続くのか、お金がちゃんと回り続けるのか、という地味なところです。
そして、資産を円だけで持っている私たち日本人こそ、「1つの通貨に全部は賭けない」という考え方を、今まさに自分のこととして持つべきだと、私は確信しています。
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出典:Reuters/Vanguard 他(ティヌブ再選運動開始・カドゥナ、2026年10月)、INEC 発表(2027年大統領選挙日程、2026年)、Nairametrics(ナイラ対ドル相場・外貨準備、2026年10月)、Central Bank of Nigeria 公表資料・Leadership 他(送金制度改革・月次送金額、2026年)。各種数値・制度は執筆時点のものです。
