
MLP INVESTOR COLUMN|UAE & EGYPT REAL ESTATE
「路面店は、借り手に困らない」——本日公開のYouTube動画で、私たちはこの一言を起点に、不動産投資の”面白い盲点”を掘り下げました。鍵は賃貸契約の裏側です。日本の「普通借家」は借り手が圧倒的に有利。だからこそ日本には”ある妙手”が存在します。ところがエジプト・ドバイには普通借家が存在せず、すべて定期借家=オーナー有利。この制度の非対称から、”借りる側”ではなく”貸す側(オーナー)”に回るという発想が生まれます。動画の内容を、専門家目線で整理します。
目次
まずは動画をご覧ください
本コラムは、以下のYouTube動画の内容に沿って解説しています。会話の空気感も含めて、まずは動画からどうぞ。
日本の「普通借家」は、借り手が圧倒的に有利
動画でも触れたとおり、日本で家や店舗を借りるとき、昔から主流だったのが普通借家契約です。この契約は、借りる側にとって非常に手厚い設計になっています。契約期間(多くは2年)が満了しても基本は自動更新。オーナー側から更新を拒むには、借地借家法第28条の「正当事由」が必要で、これは老朽化による建替えなど、極めて限定的な理由に限られます。
賃料の値上げも簡単ではありません。「上げられなくはない」けれど、相場との乖離など経済合理性のある理由を示さなければ通らず、借主に不利な特約は第30条で無効とされます。つまり日本の普通借家は、圧倒的に借り手側が有利な契約。オーナーは自分の物件でありながら、主導権を握りにくいのです。
だから日本には「老舗を会社ごと買い、1坪2万円の普通借家を引き継ぐ」妙手がある
ここが動画で私たちが「なるほどな」「たしかにな」と唸ったポイントです。普通借家が借り手有利ということは、昔から続く老舗ほど、相場より圧倒的に安い賃料を”合法的に”握り続けているということを意味します。
たとえば「30年やってます」「40年やってます」という町中華のような老舗。そうした店の賃貸契約を覗いてみると、いまだに「1坪2万円」といった、現在の相場からは考えられない好条件の普通借家であることが珍しくありません。しかもオーナー(=店主)はご高齢で、「そろそろ歳だし引退しようか」と考えている——。
ここで生まれるのが、その会社ごと買収(M&A)して、激安の普通借家を丸ごと引き継ぐという発想です。物件を借り直せば相場賃料に跳ね上がるところを、事業承継の形をとれば好条件の契約をそのまま承継できる。これは、「普通借家」という借り手有利の制度があるからこそ成立する、日本特有の妙手なのです。
対照的に、エジプト・ドバイに「普通借家」は存在しない
では、私たちのフィールドであるエジプトやドバイはどうか。結論から言えば、基本的にドバイもエジプトも、普通借家は存在しません。すべていわゆる定期借家です。契約は1年ないし2〜3年の期間で区切られ、期間満了で確定的に終了。日本のような「自動更新・借り手有利」の世界とは、前提がまるで逆になります。
実務の肌感覚としては、1年目から2年目にかけて、家賃はおおむね10%程度上がっていくのが当たり前。オーナーが主導権を握り、条件が合わなければ「嫌だったら出ていってくれ」——これが今のエジプトの現実です。制度的にも、エジプトは2025年8月施行の新賃貸法(Law No.164/165 of 2025)で、最後まで残っていた旧賃料(オールドレント)契約すら段階的に解消へ。商業用は5年で自動終了、迅速な立退命令も新設され、市場は完全にオーナー・市場価格の方向へ動いています。
ドバイもLaw No.26/2007(No.33/2008改正)の下で期間主導です。ただし正直にお伝えすると、ドバイは「オーナーがやりたい放題」ではありません。Decree No.43/2013により賃料の引き上げは相場との乖離に応じて0〜20%の上限があり、更新90日前の通知やスマート・レンタル・インデックス(DLD)判定にも服します。それでも「正当事由がなければ更新拒絶できない」という日本型の強い借り手保護はなく、期間主導でオーナー側が有利という構図は変わりません。
飲食店を”借りて”出すと、3年後に足元を見られる
この非対称は、出店する側にとって大きなリスクになります。動画でも話したとおり、「ドバイで儲かりそうだ」と飲食店を出店する。最初は良くても、定期借家ゆえに契約満了のたびにオーナーが主導権を握る。とくに飲食店は、内装に投資し、時間をかけて客がついたころほど動きにくく、足元を見られて値上げされやすい。「3年後に契約が切れたら、それをいいことに大幅値上げ」——というオーナーが少なくないのです。
つまり、普通借家のない市場で”借りる側”に回ると、日本の老舗が享受しているような「安く長く」は望めません。むしろ逆で、成長すればするほど賃料交渉で不利になりやすい。ここに、発想の転換点があります。
日本は「1坪2万円の老舗を、会社ごと引き継ぐ」。
中東は「作って、仕上げて、貸す」。
——制度が逆なら、勝ち筋も逆になる。
発想を逆転する——”借りる側”ではなく”貸す側(オーナー)”に回る
エジプト・ドバイが「すべて定期借家=オーナー有利」であるなら、賢い立ち回りは明確です。足元を見られる”借り手”ではなく、主導権を持つ”オーナー”の側に回ること。
エジプトの新首都をはじめ、この地域では次々と新しいプロジェクトが立ち上がり、新しい店がどんどんオープンしています。飲食や小売は「どうしてもそこに出店したい」。だからこそ、会社を作り、区画を内装まで仕上げ、そのうえで”募集をかけて貸していく”——というやり方が成立します。人気エリアの路面店は、そもそも借り手に困りません。定期借家の市場では、そのオーナー側に立つことで、賃料改定の主導権も、出店ラッシュの需要も、自分の収益として取り込めるのです。
日本では「安い普通借家を承継する」ことが妙手でしたが、普通借家のない中東では「オーナーとして仕上げて貸す」ことが妙手になる。制度が真逆だからこそ、取るべきポジションも真逆になる——これが動画でお伝えしたかった核心です。
⚠ 投資前に必ず押さえるべき注意点
「オーナー有利」は無条件ではありません。ドバイはDecree No.43/2013の賃料上限(0〜20%)・90日前通知・スマートインデックス判定に服し、商業賃料には5%のVATがかかります。エジプトも移行期の年15%上限や地域区分委員会の運用など制度が動いている最中です。加えて商業賃貸は法が沈黙する領域が多く、契約書の作り込み(期間・更新・原状回復・中途解約・サブリース可否)が収益を大きく左右します。老舗M&Aによる普通借家の承継も、賃貸人の承諾条項や名義変更の可否など個別確認が不可欠です。為替・送金・現地登記のリスクも含め、事前の法務・税務チェックとエリア選定を必ず行ってください。
💡 MLPの投資家視点
ポイントは「その市場の制度で、有利な側に立つ」こと。普通借家の日本では”安い契約を承継する借り手”が強く、定期借家の中東では”仕上げて貸すオーナー”が強い。エジプト・ドバイで出店ラッシュが続く今、区画を確保して内装まで仕上げ、募集をかけて貸す——このオーナー戦略は、足元を見られる出店リスクを回避しつつ、賃料改定と需要拡大の両方を収益化できます。まずは目的(インカム重視かキャピタル重視か)と保有スキーム(個人/法人)を整理し、対象エリアの制度と実勢を精査するところから始めましょう。
エジプト・ドバイで”オーナー側に回る”
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出典・参考
- YouTube動画『ドバイ・エジプト不動産、店舗投資が最強な理由──賃貸契約の裏側と路面店の魅力』(エジプトドバイアブダビTV)
- 日本 借地借家法 第28条・第30条・第38条(契約更新・正当事由・定期建物賃貸借)
- Egypt Law No.164/2025 & No.165/2025(新賃貸法、官報公布2025年8月4日・施行8月5日/非居住用5年・居住用7年の移行期間、年15%引上げ、迅速な立退命令)
- Egypt Supreme Constitutional Court 判決(2024年11月9日、旧賃料固定を違憲と判断)
- Dubai Law No.26/2007(No.33/2008改正)、Decree No.43/2013(賃料引上げ上限0〜20%・90日前通知)、Dubai Land Department「Smart Rental Index」(2025年1月刷新)
