Vol.1902:政策金利「2.25%」が来た日──住宅ローンは月2.4万円増、そしてスウェーデンが辿った「▲15%」の道

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN|日本・金融政策

「2027年末に政策金利は2.25%へ」──市場の一部が織り込み始めた強気シナリオが、住宅ローン利用者と不動産投資家をざわつかせています。日銀の政策金利は2026年6月に約31年ぶりの1.0%へ到達しました。ここからさらに1.25%ポイント上がると、あなたの毎月の返済はいくら増えるのか。そして日本の不動産市場は、どこへ向かうのか。金利急騰を先に経験したスウェーデン・豪州・ニュージーランドの「実データ」を手がかりに、専門家目線で徹底的に分解します。

読了時間 約8分
対象読者 変動金利で住宅ローンを組む方/アパート・区分マンション投資家/資産の分散を検討する方
この記事で分かること ①「2.25%」予想の位置づけ ②住宅ローン・アパートローンの返済増を具体額で試算 ③世界の先行事例が示す不動産市場のゆくえ ④投資家が今取るべき備え

「2.25%」は確定ではない──まず予想の”温度感”を正しく置く

最初に、最も大切な前提を共有します。「2027年末に政策金利2.25%」という数字は、日銀の公式見通しでも、市場のコンセンサス(中心値)でもありません。あくまで強気(タカ派)寄りのシナリオの一つ、という位置づけです。

足元を整理すると、日銀は2026年6月に政策金利を0.75%から1.0%へ引き上げ、7月会合では1.0%で据え置きました。1.0%は1995年以来、約31年ぶりの水準です。ここから先の「到達点(ターミナルレート)」の見方は、専門家の間でもかなり割れています。

主な見通しを並べると、温度差がよく分かります。

中心的な見方:1.2〜1.5%前後
民間調査(ESPフォーキャスト)の2027年末予想は「1.2〜1.3%」がボリュームゾーン。野村證券やモゲチェックも、ターミナルレートを1.5%程度と見込んでいます。
強気の見方:2.0〜2.5%
市場が織り込む到達点の代理指標(OIS)は、円安と資源高への警戒から再び2%を上抜けています。BNPパリバ証券は最終到達点を2.5%と予想し、物価次第でそれ以上のリスクにも言及しています。
本コラムの位置づけ
「2.25%」は上記2つの中間よりやや強気側。実現するかどうかではなく、“もし来たら家計と投資収支がどうなるか”を先に知っておくことに意味があります。備えのある人は、シナリオが外れても損をしません。

そもそも、なぜ政策金利で住宅ローンが動くのか

住宅ローンの変動金利は、銀行が定める「短期プライムレート」を基準に決まります。そして短期プライムレートは、日銀の政策金利(短期金利)にほぼ連動します。つまり政策金利が1.25%ポイント上がれば、変動金利もおおむね同じ幅だけ上がると考えるのが基本です(銀行ごとに反映時期・幅に差はあります)。

一方、フラット35に代表される固定金利は、政策金利ではなく長期金利(10年国債利回り)に連動します。すでに市場が将来の利上げを織り込む形で長期金利は2%超まで上昇しており、フラット35の金利も2%台に乗っています。

▼ ここがポイント
日本の新規住宅ローン利用者のうち、変動金利を選ぶ人は各種調査でおおむね7〜8割にのぼります。つまり日本は「金利上昇の影響が家計に直接・広範に伝わる国」です。この構造は、後述するスウェーデンや豪州と共通しています。

【試算①】住宅ローンはいくら増えるのか

ここからは具体額です。政策金利が1.0%→2.25%(+1.25%ポイント)へ上がり、変動金利も同じ幅だけ上昇すると仮定します。前提は「借入4,000万円・35年・元利均等・現在の適用金利0.8%」。金利は0.8%→2.05%になります。

金利0.8%(現在)
毎月返済 約109,224円/総返済 約4,587万円(うち利息 約587万円)
金利2.05%(2.25%到達シナリオ)
毎月返済 約133,534円/総返済 約5,608万円(うち利息 約1,608万円)
差額(4,000万円ケース)
毎月 +約24,300円(+22.3%)/年間 +約29万円/総返済 +約1,021万円

借入5,000万円なら、毎月の増加は+約30,400円、総返済差は+約1,276万円に膨らみます。「たかが1.25%」が、35年という時間軸で1,000万円超の差になる。これが複利の重みです。

「5年ルール・125%ルール」は本当にあなたを守るか

変動金利には、急な負担増を和らげる安全装置があります。金利は半年ごとに見直されても、毎月の返済額は5年間据え置き(5年ルール)、見直し時も前回の1.25倍まで(125%ルール)という仕組みです。ただし、過信は禁物です。

  • 返済額が抑えられても利息は減りません。金利が急上昇すると、返済額より利息が上回り「未払利息」が積み上がるリスクがあります。
  • 元金均等返済、固定期間選択型には適用されません。
  • ソニー銀行やSBI新生銀行など、そもそもこのルールを採用せず、上昇分が即時に返済額へ反映される銀行もあります。
  • そして最も重要な点として──投資用のアパートローンは、多くの場合この5年ルールの外側にあります。

【試算②】アパートローンは”収支ごと”揺れる

不動産投資のアパートローンは、住宅ローンより金利水準が高く(変動で概ね1.5〜3%台)、5年ルールの緩衝もないケースが一般的です。前提を「借入1億円・30年・元利均等・現在2.0%→3.25%」として試算します。

金利2.00%(現在)
毎月返済 約369,619円/年間 約443万円
金利3.25%(2.25%到達シナリオ)
毎月返済 約435,206円/年間 約522万円
差額(1億円ケース)
毎月 +約65,600円/年間 +約79万円/総返済 +約2,361万円

キャッシュフローで見ると衝撃はより鮮明です。表面利回り7%・満室で年間家賃収入700万円の物件なら、返済控除後の手残りは約256万円 → 約178万円へ。返済増だけで年約79万円が削られます。空室・修繕・税を織り込めば、薄い利回りの物件は容易に赤字転落圏に入ります。金利上昇局面で「フルローン・低利回り・変動」の三点セットが最も脆いのは、このためです。

金利は「毎月の数万円」ではなく、
「収支構造そのもの」を書き換える。

世界の先行事例──”変動金利の国”に何が起きたか

日本がこれから通るかもしれない道は、すでに他国が通っています。2022〜2023年、世界の中央銀行がインフレ退治で利上げを急いだとき、住宅市場がどう反応したか。IMFの分析は明快で、変動金利の比率が高い国ほど、住宅価格の下落が大きかったと指摘しています。

スウェーデン|ピークから約▲15%
変動金利比率が約51%と高く、政策金利の変化が住宅価格へ速く強く伝わりました。中央銀行が政策金利を3〜4%へ引き上げると、2022年Q1のピークから住宅価格はG10で最速級の下落。パンデミック期の上昇分をほぼ帳消しにしました。
ニュージーランド|約▲14%
こちらも変動金利中心。急激な利上げで家計が短期間で圧迫され、売却を迫られる層が下落を加速させました。
オーストラリア|全国▲8%台、シドニー▲12%
中央銀行が2022年に連続利上げを実施。2022年5月〜2023年1月に全国で約8.4%下落し、高額なシドニーは2022年に約12.1%下げました。

対照的に、住宅ローンの大半が30年固定である米国や、公的住宅の比率が高いオランダ・デンマークは、利上げの家計インパクトが相対的に緩やかでした。つまり価格下落の深さを決めたのは、利上げの幅そのものより「金利が家計にどれだけ速く刺さる仕組みか」だったのです。

変動金利7〜8割・低金利前提で価格が積み上がってきた日本は、構造としてはスウェーデン・豪州側に近い。もちろん、日本は利上げ幅が緩やかで、賃金上昇や供給の少なさなど下支え要因もあり、単純な横並びはできません。それでも「金利が上がれば価格に効く」という力学から、日本だけが例外でいられる保証はありません。

⚠ 見落とされがちなリスク

本コラムの数字は「政策金利2.25%・変動金利も同幅上昇」という一定の前提に基づく試算であり、将来を保証するものではありません。実際の適用金利・反映時期は金融機関や契約により異なります。特に投資用ローンでは、金利上昇と賃料の下落・空室率の上昇が同時進行しやすく、収支は試算より厳しくなり得ます。「変動でも5年ルールがあるから大丈夫」という思い込みは、投資用ローンや一部銀行では通用しない点にご注意ください。

💡 投資家の視点

金利上昇局面で問われるのは、個別物件の良し悪しより「資産全体の設計」です。ポイントは3つ。

①ストレステストを先に回す──「金利+1.25%・空室+10%」で手残りが残るか。残らないなら、その物件は金利ではなく設計に弱点があります。

②金利の”種類”と”通貨”を分散する──固定と変動、そして円建て一辺倒からの脱却。日本の利上げと逆の局面にある国・通貨の資産を持つことは、ポートフォリオ全体の金利感応度を下げます。

③”金利が下支えになる市場”も選択肢に入れる──外貨預金金利が高い新興国、実需の強い成長市場(エジプト・ドバイ・ジョージア等)は、日本の金利サイクルと相関しにくい資産クラスです。日本の不動産を売る/買わないという話ではなく、「日本一本足」からの分散という発想です。

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出典・参考

  • 日本経済新聞「日銀政策金利『到達点』予想が上昇、再び2%超える」(2026年7月)
  • ダイヤモンド・オンライン/BNPパリバ証券 河野龍太郎氏「利上げ9月から加速へ、最終2.5%まで上昇か」(2026年8月)
  • 野村證券 NOMURAウェルスタイル「日銀の追加利上げ予想」(森田京平氏、2026年1月)
  • 日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」2027年末政策金利見通し(2026年2月)
  • モゲチェック(MFS)「2026年の変動金利予想」「5年ルール・125%ルール」解説
  • 三菱UFJ銀行・SBI新生銀行 住宅ローン金利解説コラム
  • IMF Blog “Housing Affordability Remains Stretched Amid Higher Interest Rate Environment”(2024年1月)
  • Axios / International Banker / Capital.com(スウェーデン・NZ・豪州の住宅価格下落データ)
  • IBISWorld(オーストラリア住宅価格下落率、2022〜2023年)

※本コラムは特定の金融商品の勧誘を目的とするものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。試算値は前提条件に基づく概算であり、将来の金利・価格・収支を保証するものではありません。

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