Vol.1891:ステーブルコインが過去最高3,230億ドルへ──“デジタルドル”は投機から金融インフラになった。日本人が見るべきは価格ではなく「どの通貨の器か」

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN|暗号資産・通貨戦略

ステーブルコインが過去最高の3,230億ドルへ──“デジタルドル”は投機から「金融インフラ」へ。日本人投資家が見るべきは、価格ではなく「どの通貨の器か」

ドルに連動するステーブルコインの時価総額が、過去最高の約3,230億ドルに達しました。もはや値上がりを狙う投機商品ではなく、機関投資家が使う“決済インフラ”へと姿を変えつつあります。この動きは、日本人の資産形成にとって何を意味するのか。「ドル覇権の拡張」という視点から、冷静に読み解きます。

読了時間
約6分
対象読者
暗号資産・デジタルドルの動きを資産防衛の観点で理解したい方/ドル分散を検討している個人投資家
この記事で分かること
ステーブルコイン急拡大の中身と背景/日本の円ステーブルコインの現在地/投資家が価格の前に見るべき「通貨の器」という視点

何が起きたのか──ステーブルコインが過去最高の3,230億ドルに

米ドルなどに価値を固定した「ステーブルコイン」の時価総額が、2026年に入って過去最高の約3,230億ドル(約50兆円規模)に達しました。中心となるUSDTとUSDCの二大コインだけで合計約2,600億ドルと、2023年の約3倍。オンチェーン取引の3割以上をステーブルコインが占めるまでになっています。

特徴的なのは、この拡大が個人の投機ではなく機関投資家・伝統的金融(TradFi)からの大口資金で牽引されている点です。ブラックロックは規制適合を狙ったトークン化マネーマーケットファンドを投入し、銀行や決済大手も自社ステーブルコインの発行に動いています。ステーブルコインは、値上がりを狙う対象ではなく、ドルを速く・安く動かすための“決済インフラ”へと役割を変えつつあります。

なぜ今、「デジタルドル」が急拡大しているのか

背景にあるのは、米国で2025年7月に成立した「GENIUS法」です。これは決済用ステーブルコインを対象とする初の連邦法で、100%のドル・米国債による裏付けを義務づけ、ステーブルコインを“政府公認のデジタルドル”として位置づけました。英国はイングランド銀行が発行体ごとに400億ポンドの暫定上限を設け、EUはMiCAで枠組みを整備。主要国が足並みをそろえて「規制されたデジタルドル」の土台を築いています。

ただし順風満帆ではありません。米国の規制当局は、法律が定めた1年の期限(2026年7月18日)までに最終規則を出せず、完全施行は2027年初頭にずれ込む見通しです。つまり“制度は動き出したが、まだ完成していない”のが現状です。

ステーブルコインの本質は「新しい投資対象」ではない。
ドル覇権が、デジタルの世界へ拡張しているのだ。

日本の“円ステーブルコイン”は、どこにいるのか

「では円のステーブルコインは?」——日本も静かに動いています。改正資金決済法(2023年施行)は、円ステーブルコインの発行を①銀行、②資金移動業者、③信託銀行の3つの器に限定。2025年10月にJPYC社が日本初の規制対応・円建てステーブルコイン「JPYC」を発行しました(円預金と日本国債で裏付け)。2026年には信託型のJPYSC(SBI新生信託銀行)も予定されています。

実利用も始まっており、アマゾンジャパンのラストワンマイルを担う物流大手が、約2,300の取引先ドライバーへの支払いにJPYCを使い始めました。三菱UFJ・三井住友・みずほは共同で、2028年までにB2Bで1兆円規模の発行を目指しています。

JPYC(資金移動業者型)
2025年10月発行、日本初の規制対応・円建てステーブルコイン。1日あたり利用上限あり。円預金・日本国債で100%裏付け、償還を保証。
JPYSC(信託銀行型)
SBI新生信託銀行による日本初の信託型。2026年に予定。日次上限がなく、法人・機関投資家向けの大口決済を狙う。
メガバンク連合(Progmat等)
三菱UFJ・三井住友・みずほが共同実証。2028年までにB2Bで1兆円規模の発行を目標に、30万社超の法人取引を対象に想定。

もっとも、円ステーブルコイン全体の規模は世界の供給量の0.01%にも満たないのが実情です。ドル建ての巨大さの前では、円のデジタル化はまだ始まったばかり——ここに、日本人投資家が向き合うべき現実があります。

投資家が、本当に見るべきこと

ステーブルコインのニュースを「新しい儲け話」として読むのは的外れです。値動きがないよう設計されている以上、それ自体で資産が増えるわけではありません。本質は別のところにあります。

それは、デジタルの世界でも“ドル”が基軸であり続けているという事実です。世界の決済インフラが規制されたドル建てステーブルコインを土台に組み上がっていく一方で、円のデジタル化は規模でも速度でも大きく後れを取っている。これは、円だけで資産を持ち続けることの機会損失を、また別の角度から突きつけています。相場を当てにいくのではなく、ドルや外貨で資産を持つ“器”を整えておく——本コラムが一貫して伝えてきた視点は、デジタルの文脈でも変わりません。

⚠ 注意
ステーブルコインは「価格が安定するよう設計されている」だけで、リスクがゼロではありません。裏付け資産の質、発行体の信用、規制未確定というリスクは残ります。加えて、2026年からはOECDのCARF(暗号資産報告枠組み)によりデータ収集が始まり、2027年から各国税務当局への自動的な情報交換が予定されています。「暗号資産だから見えない」という前提はすでに崩れており、保有・取引は税務の観点でも“見られる”前提で設計する時代です。

💡 投資家の視点
富裕層はステーブルコインを「投資対象」ではなく「ドルを動かすためのレール」として見ます。重要なのはコインの値段ではなく、自分の資産が最終的に“何通貨で・どの管轄に”置かれているか。デジタルドルの拡大は、円偏重を見直すもう一つのサインです。焦って暗号資産を買うのではなく、海外口座や外貨建て資産という土台を先に整え、その上で新しい決済インフラを必要に応じて使う——順番を間違えないことが、長期の資産防衛につながります。

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出典・参考

  • Coingape「US Briefs UK on GENIUS Act Stablecoin Implementation」(2026年8月、時価総額3,230億ドル)
  • MEXC / crypto.news「Stablecoin Market Cap Hits $320 Billion」(2026年3月)
  • Investing.com / CoinDesk(GENIUS法とステーブルコイン、2026年)
  • Tech Times「Japan Yen Stablecoin Moves From Pilot to Payroll」(2026年7月20日)
  • Fystack / Forrester「Japan Stablecoin Regulation 2026」(JPYC・JPYSC・Progmat)
  • OECD CARF / DAC8 実装アップデート(2026年)

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