Vol.1884: 創業129年・世界最大の不動産コンサル『ナイトフランク』が、なぜエジプト新首都に強気なのか──「Destination Egypt」が示す14億ドルの投資家心理

〇この記事を読むのに必要な時間は約12分です。

埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN | EGYPT

「創業129年、世界最大の不動産コンサル」が、
エジプトの新首都に太鼓判を押しました。

その会社の名は、ナイトフランク(Knight Frank)。名前は聞いたことがあっても、”どれほど重い存在なのか”を知る日本人投資家は多くありません。本稿では、この老舗の正体を掘り下げたうえで、彼らが公表した強気レポートの中身を読み解きます。

読了時間
約7分
対象読者
新興国不動産・エジプト投資に関心のある個人投資家
この記事で分かること
① ナイトフランクという会社の正体と信頼性
② 「Destination Egypt 2025」レポートの要点
③ 新首都(NAC)が投資家の”本命”である理由
④ JLL・Colliers・格付け機関など、他の大手も前向きな事実

エジプト新首都(New Administrative Capital/以下NAC)に関する情報は、正直なところ玉石混交です。現地デベロッパーの販売資料は当然ながら強気で、どこまで真に受けてよいのか判断に迷う。そんな中で、業界の外から見ても”格付け級”の重みを持つ一次情報が出てきました。それが、英・ナイトフランクの年次レポート「Destination Egypt 2025」です。まずは、この会社が何者なのかを整理しておきましょう。

ナイトフランクとは何者か?

ナイトフランクは、1896年にロンドンで創業した不動産コンサルティング会社です(設立当時の社名はKnight, Frank & Rutley)。実に129年の歴史を持ち、世界最大級の”独立系(非上場)”不動産コンサルとして知られています。規模を数字で押さえておきましょう。

創業・本社
1896年創業/本社は英国ロンドン(55 Baker Street)
ネットワーク規模
世界50超の国・地域に480以上のオフィス、従業員は2万人超
取扱資産規模
管理する不動産の総額は8,000億ドル超(約120兆円規模)
看板レポート
世界の富裕層動向を追う「The Wealth Report(ウェルスレポート)」は、機関投資家やメディアが引用する定番資料

歴史の重みも別格です。過去にはストーンヘンジの売却、イングランドの町ライゲイトの一括取引、ウィンストン・チャーチルの邸宅の取引まで手掛けてきました。近年ではロンドン五輪選手村やドバイ・パームジュメイラの高級物件など、世界のランドマーク級案件に関与しています。つまり「よく知らない海外の業者」ではなく、世界の不動産市場の”目盛り”を提供してきた側の会社だということです。

ナイトフランクが「前向き」と言うとき、それは
営業トークではなく、”世界の資本がどこへ動いているか”の観測記録に近い。

なぜ彼らの見立てが”一次情報”として効くのか

ここが最も重要なポイントです。ナイトフランクは特定デベロッパーの販売部隊ではありません。独立系のコンサル・リサーチ機関である以上、「この物件を売り切りたい」というポジショントークが構造的に混ざりにくい。彼らのリサーチ部門は、湾岸のソブリンウェルスファンドや世界の富裕層マネーが”実際にどこへ流れているか”を追うことを仕事にしています。

だからこそ、彼らがエジプトに前向きなレポートを出したという事実そのものが、個別物件の広告よりもはるかに読む価値がある。では、その中身を見ていきましょう。

「Destination Egypt 2025」レポートの核心

同レポートは2025年9月30日に公表されました。要点を、彼らが提示した数字で押さえます。

流入する民間資本
エジプト住宅市場に、世界から約14億ドルの民間資本が向かうと予測
2025年の新規供給
30,830戸を供給見込み。2024年(24,000戸)から約29%増
建設市場の厚み
受注済み建設契約1,200億ドル、計画中パイプライン5,655億ドル。サウジ・UAEに次ぐMENA第3位の建設市場
牽引役
GCC(湾岸)のソブリンウェルスファンド。2021年以降のGCC政府によるエジプト投資は累計約595億ドルにのぼる

同社リサーチMENA責任者は、エジプトが「地域の不動産開発拠点へと変貌を遂げつつある」と総括しています。単なる住宅ブームではなく、国家プロジェクトとして資本が積み上がっている構図です。

新首都(NAC)が”本命”である理由

レポートが最も注目したのが、投資家の投資先としての新首都(NAC)の存在感です。ここでも数字が雄弁です。

超富裕層の第一候補
純資産1,000万ドル超の超富裕層のうち47%がNACを第一候補に。次いで北海岸(28%)、中心部カイロ(26%)
湾岸マネーの視線
サウジ富裕層の56%、UAE富裕層の34%がNACを志向
価格の上昇力
シェイクザイドの住宅価格は2024年1月以降+24.7%、㎡あたり約1,964ドルへ。新ザイドは約2,100ドル/㎡、新カイロは約1,750ドル/㎡
住宅開発パイプライン
レポートは2028〜29年に104件の住宅プロジェクト完成を追跡。中長期の開発が国家プロジェクトとして積み上がっている

こうした数字が示すのは、NACが単発の話題物件群ではなく、湾岸マネーと超富裕層の資金が継続的に向かう”面”としての市場だということです。買い手の顔ぶれが、市場の本気度を物語っています。

“誰が買っているか”を見れば、市場の本気度が分かる。
NACの買い手は、湾岸のソブリンマネーと世界の超富裕層だった。

ナイトフランクだけではない──他の大手も同じ方向を向いている

一社のレポートだけなら”見方の一つ”にすぎません。しかし実際には、世界の主要な不動産コンサルや格付け機関が、そろってエジプトに前向きな評価を出しています。ここが重要です。

JLL(世界大手の不動産サービス会社)
2025年の各四半期レポートで一貫して前向き。通貨フロート後に市場心理が改善し、新規オフィス供給の中心はNACと新カイロだと指摘。金利低下により、銀行預金から不動産へ資金がシフトすると予測し、不動産を「金利低下・通貨変動へのヘッジ」と位置づけています。
Colliers(世界大手の不動産コンサル)
2025年Q1レポートで、小売市場の新規供給の大半がNACと新カイロで発生し、空室率が前年の9.2%から7.2%へ低下したと報告。賃料も上昇基調で、需要の底堅さを示しています。
S&P・Moody’s(世界的な格付け機関)
S&Pは2025年10月、エジプトの国家信用格付けを約7年ぶりに1段階引き上げ「B」に。為替の柔軟化などの改革を評価し、2026〜28年の成長率を平均4.8%程度と見込んでいます。Moody’sも見通しを改善。国家レベルの信用が上向いていることは、不動産市場の土台への追い風です。
大型FDIという”事実”
UAE(ADQ)による350億ドル規模のラス・エル・ヘクマ開発、IMFによる80億ドルの支援プログラム。レポートの言葉ではなく、実際に動いた巨額資本が、エジプトへの信認を裏づけています。

独立系コンサル、格付け機関、そして実際に動いた350億ドル。
複数の権威が、同じ方向を指している。

日本の投資家が、このレポートから読むべき3点

数字の羅列で終わらせず、日本の個人投資家の視点に翻訳します。

① “誰が買っているか”=湾岸マネーという裏付け
日本人投資家が単独で判断しにくい新興国において、サウジ・UAEの政府系資金と超富裕層が同じ方向を向いていることは、地政学的な下支えを意味します。
② “第三者”が価格上昇を記録している
売り手ではなく独立系の世界的コンサルが、シェイクザイド+24.7%などの実データを継続的に記録していること自体が、市場の実態を測る信頼できる物差しになります。
③ 表面と実質は違う、という冷静さ
レポートが示すのは”資本流入トレンド”であって、個別物件の利回り保証ではありません。ここは投資家自身が線引きすべき領域です。

⚠ 見落としてはいけないリスク

第一に為替リスク。エジプトポンド(EGP)はここ数年で大きく変動しており、現地通貨建ての値上がりが円換算・ドル換算でそのまま利益になるとは限りません。第二に出口(流動性)リスク。売りたいときに買い手が見つかるかは、物件と立地に大きく依存します。第三に表面利回りと実質利回りの乖離。当コラムでは以前から「エジプト不動産のリアルな利回りは1%程度になり得る」とお伝えしてきました。ナイトフランクの強気は”市場全体への資本流入”を示すものであり、個別物件の手取り収益を約束するものではない──この区別が投資家の生命線です。

💡 MLPの投資家視点

ナイトフランクのレポートは、いわば”マクロの追い風を示した地図”です。地図は方角を教えてくれますが、実際にどの区画のどの物件を、どんな支払い条件で買い、どう出口を取るかは、地図には書かれていません。世界最大級のコンサルが前向きな市場だからこそ、個別の物件選定と出口戦略で差がつきます。MLPは現地目線で、その両方を一貫してサポートしています。

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出典

・Knight Frank「Destination Egypt 2025」(2025年9月30日公表)
・EgyptToday「$1.4B in private capital targets Egypt’s residential market」
・Daily News Egypt「Private capital flows into Egypt’s housing market with $1.4bn」
・Invest-Gate「Knight Frank: Global Private Capital to Inject USD 1.4bn into Egypt’s Residential Market」
・EdgeProp Singapore「Egypt attracts US$1.4 bil private capital, led by GCC sovereign wealth funds」
・JLL「Cairo Market Dynamics」各四半期レポート(2024〜2026年)
・Colliers「Cairo Real Estate Market Q1 2025」
・S&P Global Ratings/Ahram Online(2025年10月・エジプト格付け引き上げ)
・Moody’s/EnterpriseAM(見通し改善・ラス・エル・ヘクマ)
・Knight Frank 公式サイト/Wikipedia(会社概要・沿革)

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