
前回(Vol.1850)、私たちは「スペースXは“買い”か?」という問いに、ひとつの答えを示しました。
「事業の質」と「価格」を切り分け、ジョージア銀行の定期預金(年10%)の利金を原資に、米国株へドルコスト平均法で向かう──というものです。
あれから株価は史上最高値を更新し、そして急落しました。今回は、その“答え合わせ”をします。
目次
まず、あれから何が起きたか
前回のコラムを書いた後、SPCX(スペースX)は熱狂のピークを迎えました。6月12日に1株135ドルで上場し、わずか数日で史上最高値225.64ドル(6月16日)へ。時価総額は約2.99兆ドルに達し、一時はアマゾンやマイクロソフトを抜いて世界第4位に立ちました。
ところが、そこからの下げが速かった。3営業日で約23%下落し、6月22日の終値は154.60ドル(同日16%安)。この間に失われた時価総額は6,000億ドル超。22日の1日だけで約4,000億ドルが消え、これは米国株式市場で2番目に大きい“1日の時価総額蒸発”でした。翌23日には一時147ドルまで下げ、IPO初日の寄り付き値(150ドル)すら下回る場面がありました。
数字だけ見ると「暴落」です。SNSでは「ミーム株だ」「ババ抜きだ」という声も上がりました。では、これは慌てて逃げるべき場面なのでしょうか。私たちの見方は、少し違います。
なぜ下げたのか① ── 引き金は「初の社債発行」
直接の引き金は、上場からわずか10日後の初の社債発行(200億ドル規模の投資適格・無担保債)の発表でした。調達資金の主な使途は、2月に完了したxAIとの統合に伴うブリッジローン(つなぎ融資)の返済とされています。
企業財務の観点では、これは「短期の銀行借入を、長期・低利の固定金利債に置き換える」ごく普通の構造最適化です。むしろ健全な動きとも言える。
しかし市場は、IPO直後というタイミングを「そんなに早く現金が要るのか=資金繰りが苦しいのでは」と受け取りました。事業の数字が悪化したわけではなく、“受け取られ方”が悪かったのです。これが第一の本質です。
なぜ下げたのか② ── 「需給」という増幅装置
下げを大きくしたのは、株価そのものより株式の“出回り方(需給)”でした。ここが、上場直後のメガキャップ特有の難しさです。
| 要因 | 何が起きているか |
|---|---|
| 極端に薄い浮動株 | 市場で取引可能な株は発行済みの約4〜5%のみ。少ない売買で価格が上下に大きく振れる。 |
| ロックアップ解除の影 | 8月の初回決算に連動し、ロック中株の約20%が放出される可能性。「値上がりが、売りを誘う」構造。 |
| 巨額買収による希薄化 | 600億ドルでのCursor買収(全株式)で約3.4%の希薄化。AI投資の資金負担への警戒。 |
| オプション取引開始 | SPCXオプションの売買開始で、マーケットメイカーのヘッジが日中の値動きを機械的に増幅。 |
一番大事な切り分け ── 「事業の悪化」ではなく「価格の調整」
ここで前回の枠組みに戻ります。「事業の質」と「価格」は別物──これがVOL.1850の出発点でした。
- 事業の質:スターリンクという利益エンジン、再使用ロケットの圧倒的コスト優位、AIインフラへの拡張。ここは依然として“最上級”。
- 価格:一方で株価は2025年売上高の約116倍(PSR)。純損失も続いている。アナリストの12カ月目標株価は平均で約188ドル、強気で310ドル、弱気では約62ドルと、見方が大きく割れている。
つまり今回の下げは、「事業が崩れた」のではなく「価格が未来を先に織り込みすぎた反動」です。問題は会社の中身ではなく、「この価格で、その未来を買うか」という一点に集約されます。そして“その未来”が確定するのは、8月の初回決算という最初の答え合わせからです。
弊社の答え合わせ ── 「利金原資のドルコスト平均法」は、こういう日のためにある
前回、私たちが提案した戦略を思い出してください。「ジョージア銀行の定期預金(年10%前後)の利金を原資に、米国株へドルコスト平均法(DCA)で積み上げる」──というものでした。
この設計の真価は、まさに今日のような下落局面でこそ現れます。
| 一括で“天井”を掴んだ人 | 利金原資のDCAで向かう人 | |
|---|---|---|
| 225ドルで買った場合 | ▲30%の含み損に直面し、狼狽売りの誘惑 | そもそも一度に全額を入れていない |
| 155ドルへ下落したら | 「損切りか、塩漬けか」の二択 | 同じ利金で、より多くの株数を買える好機 |
| 元本(原資)は | 株価とともに目減り | 定期預金の中で守られている |
| 精神状態 | 値動きに支配される | 設計に従って淡々と続けるだけ |
では、いま“買い”か? ── タイプ別の考え方
「結局、買いなのか」。前回同様、私たちは断定はしません。判断軸は「事業を信じるか」ではなく、「この価格で、その10年後を買えるか」だからです。タイプ別に整理します。
① 一括投資で“当てに行きたい”人
おすすめしません。浮動株4%・ロックアップ・初回決算という変動要因が重なり、短期の値動きは誰にも読めません。ここは投機の領域です。
② 長期で“事業の未来”に賭けたい人
本命は8月の初回決算。ストーリーで動いた株価が、売上成長率・利益率・キャッシュフローという「数字」で再評価される最初の機会です。焦って高値を追わず、仕込むなら時間を分散するのが鉄則です。
③ 弊社が現実解として提案する人
原資を守りながら参加したい方には、やはり「ジョージア定期10%の利金を使ったDCA」です。今回のような下落は、この方法にとって“追い風”。元本を晒さずに、下げを味方につけられます。
結び ── 「価格」に振り回されず、「設計」で持つ
史上最大のIPOは、わずか10日で天国と地獄を見せました。けれど、私たちの結論はVOL.1850から一文字も変わっていません。
優れた事業を、適正でない価格で、しかも一度に買えば、それは投資ではなく投機になる。
だからこそ私たちは、原資を守る器(ジョージア定期)と、下げを味方にする仕組み(利金原資のDCA)という“設計”を先に持つことを勧めてきました。設計があれば、225ドルの熱狂にも、147ドルの恐怖にも、振り回されずに済みます。
ニュースの見出しは、明日にはまた変わります。変わらないのは、あなたの資産を「価格」ではなく「設計」で持つという規律だけです。
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(前回コラム)▶ Vol.1850:スペースXは“買い”か?|PSR約100倍のIPOに、ジョージア定期預金で挑む現実解
