
INVESTOR COLUMN
Meti Lux Partners
Global Investment & Advisory | Investor Column
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執筆者 埜嵜 雅治/Meti Lux Partners 代表取締役CEO
「ドバイの不動産はまだ上がる」と「2026年は大量供給で暴落する」──同じ市場について、まったく逆の見出しが同居しています。どちらが正しいのかは、煽り文句ではなく数字で確かめるしかありません。本コラムでは、2026年に予定される記録的な新規供給と、足元でなお過去最高を更新し続ける取引実績という二つの事実を並べ、「調整」がどこで起き、どこで起きにくいのかを、供給側・需要側の両面から冷静に整理してまいります。
目次
出発点 ── 「11万戸」という供給の重み
調整リスクを論じるとき、最初に直視すべきは供給量です。UBSの推計によれば、2026年だけで11万戸を超える住宅が引き渡される見込みで、これは過去10年の年平均(およそ2万7,000戸)を大きく上回る水準です。Fitchも、2023年から2026年にかけて約25万戸が市場に流入し、そのピークが2026年に来ると見ています。
なぜこれが論点になり得るのか。理屈は単純です。新しい部屋が出てくるスピードに、住む人・買う人が追いつかなければ、賃料と価格に下押し圧力がかかるからです。実際、賃料の伸び率にはすでに鈍化の兆しが見られ、平均利回りは7%台前半まで低下したと報じられています。供給だけを取り出して見れば、弱気に傾くのは自然なことです。
⚠ 供給が集中するエリアに注意
引渡しの波は市内に均等には来ません。Jumeirah Village Circle(JVC)、Arjan、Dubailand の一部、Dubai Hills Estate など、新築供給が厚いエリアほど、調整局面では値動きが鈍くなりやすいとされています。「市全体の平均価格」で市場を語ると、この偏りを見落とすことになります。
もう一方の数字 ── 「冷えていない」需要の現実
ところが、需要側の数字はまったく別の絵を描きます。ドバイ土地局(DLD)によれば、2025年の取引総額は約9,170億ディルハム(約2,500億ドル)と過去最高を記録し、取引件数も27万件超(前年比+20%)に達しました。第4四半期(10〜12月)は単四半期として史上最高の1,874億ディルハムを記録しています。
勢いは2026年に入っても続いています。DLDの公式発表では、2026年第1四半期の取引額は2,520億ディルハムで、前年同期比+31%。「大量供給で崩れる」というシナリオとは、少なくとも一次データの上では逆方向の動きです。背景には、年間20万人規模の人口流入と、ゴールデンビザに代表される「居住権と不動産を結びつける」政策があります。
Supply & Demand at a Glance ── 2026年ドバイ不動産の早見表
| 指標 | 数値・状況 |
|---|---|
| 2026年の新規引渡し見込み | 11万戸超 (10年平均の約4倍) |
| 2025年 取引総額 | 約9,170億ディルハム (前年比+20%・過去最高) |
| 2026年 第1四半期 取引額 | 2,520億ディルハム (前年比+31%) |
| 価格上昇率(2025年) | 前年比+13% (22四半期連続上昇) |
| 第三者機関の調整見通し | 最大▲15%(特定セグメントに限定) |
| 読み解きのカギ | 「全市一括」ではなく「エリア・物件種別」 |
💡 投資家への示唆
供給ラッシュと過去最高の取引が同時進行している、という事実こそが本質です。これは「全市が崩れる/全市が上がる」のいずれでもなく、市場が二極化していることを意味します。平均価格という一つの数字に依存すると、この分岐を必ず見誤ります。
最大の論点 ── 「暴落」か「健全な調整」か
一方で、「調整ではなく崩壊だ」とする強い見出しも出回っています。一部メディアは、地政学的緊張の高まりを受けて直近で取引量が落ち込んだと報じ、エアスペースの制限や投資家の移動制限が買い手の流れを細らせたと指摘します。2026年の地域情勢(米・イラン情勢)が、短期的にセンチメントを冷やす要因になり得ることは事実です。
ただし、ここで冷静さが要ります。格付機関のFitchは、2022年からの約60%という急騰の反動として、2025年後半〜2026年の調整幅を「最大15%」程度と見積もり、これは市場の構造的崩壊ではなく「健全な調整」の範囲だとしています。UAEの銀行・デベロッパーは、レバレッジ改善と利益体力により、この程度の下落には十分耐えられるという評価です。つまり論点は、「上がるか/暴落するか」ではなく、「どのセグメントが・どの程度・どのくらいの期間、調整するか」に移っています。
Segment Outlook ── セグメント別「調整耐性」早見表
| セグメント | 2026年の傾向(数字からの読み) |
|---|---|
| プライム(パーム、ダウンタウン等) | 供給が物理的に限られ、下落局面でも底堅い。回復局面では先導しやすい。 |
| ファミリー向けヴィラ | 用地希少性と実需により、アパートより値動きが安定しやすい。 |
| 新築集中エリアの中小アパート | 供給過多で賃料・価格の調整圧力が最も出やすいゾーン。 |
| オフプラン全般 | 序盤は伸びやすいが、デベロッパー選別と引渡し実績の確認が不可欠。 |
投資家が見るべき実務 ── では、どこを・どう選ぶか
① そのエリアの「引渡し予定戸数」
市全体の平均価格ではなく、検討中のエリアに2026〜2028年で何戸が入ってくるかを確認します。供給の厚いゾーンは、短期の賃料利回りが圧迫されやすいことを、あらかじめ織り込む必要があります。
② 「賃料利回り」の方向
全体平均は7%前後とされますが、重要なのは水準よりも方向です。新築ラッシュのエリアでは利回りが低下しやすく、希少性の高いエリアでは維持されやすい。出口(売却・賃貸)まで含め、利回りのトレンドで判断します。
③ デベロッパーと管理会社の「実行力」
成熟市場では、価格よりも「誰が建て、誰が運営するか」が資産価値を左右します。引渡し実績・遅延の有無・管理品質は、竣工後の賃貸付けと再販価格に直結します。
⚪ 投資家が確認すべき3つの数字
- エリア別の引渡し予定戸数──供給の厚い/薄いで、短期の値動きは大きく変わる。
- 賃料利回りのトレンド──水準そのものより、上向きか下向きかを見る。
- デベロッパーの引渡し実績──遅延・品質は再販価格に直結する。
結び ── 数字は「二極化」を語っている
2026年のドバイは、史上最大級の供給ラッシュと、過去最高の取引実績が同時に進行する、きわめて読み解きの難しい市場です。地政学リスクが短期のセンチメントを冷やす場面もあるでしょう。しかし一次データが示しているのは、市場全体の崩壊ではなく、エリアと物件種別による二極化です。
プライムと希少性の高いヴィラは底堅く、新築が集中する中小アパートは調整圧力を受けやすい。だからこそ、いま必要なのは「買うか・待つか」の二択ではなく、「どこを・どの条件で」という精度の高い選別です。煽り見出しに振り回されず、数字で意思決定するための材料を持つことが、この局面では何より重要だと弊社は考えております。
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