
145カ国中19位・アラブ最上位、その実像と「縮んで見える国防費」の正体
私はエジプトのニューカイロで暮らしています。日本の方とお話しすると、投資の話をする前に、ほぼ必ず聞かれることがあります。「エジプトって、治安は本当に大丈夫なんですか?」と。
その答えの大きな部分を担っているのが、今日のテーマ――中東アラブで最大・最強とされるエジプト軍です。数字で見ると、その実力も、そして投資家として本当に注目すべき「意外な一点」も、くっきり見えてきます。
エジプト軍とは――中東アラブ最大の、分厚い実像
まず規模からお話しします。私も現地に住むまで、ここまでとは思っていませんでした。
Global Firepower(2026年版)によると、エジプトの現役兵は約43万8千人。予備役が約47万9千人、準軍事組織(治安部隊など)が約30万人で、動員可能な人員を合わせると総勢120万人を超えます。陸軍の人員は世界10位。これは中東でも、アフリカでも、アラブ世界でも最大級の数字です。
準軍事組織は、正規の軍隊ではないものの、武器を持って国を守る組織(国境警備隊や治安部隊など)のこと。エジプトはこれも30万人と、厚い層を持っています。
装備も「数」が効いています。
フリゲート…中型の軍艦。海の護衛役の主力で、艦隊の”働き頭”です。
ヘリ空母(強襲揚陸艦)…ヘリコプターや兵員・車両を積んで運ぶ大型艦。エジプトはフランス製を2隻持ち、これは世界でも4番目に多い保有数です。
そして忘れてはいけないのが「位置」です。エジプトは、世界の海運の大動脈であるスエズ運河を抱えています。この一点だけでも、エジプト軍が守るものの重さ――そして各国がエジプトと手を組みたがる理由が分かるのではないでしょうか。
国防費・過去20年――「減った」ように見える、本当の理由
ここからが、私が投資家として一番お伝えしたい部分です。
エジプトの国防費を、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のドル建てデータで20年ぶん並べてみました。まずは、素直に見てください。
グラフを見て、「あれ、2015年をピークに、最近はむしろ半分近くまで減っている」と思いませんでしたか。2017年と2024年に、ガクンと落ちています。
ここで短絡的に「エジプトは軍備を縮小している」と読むと、大きく間違えます。
そのうえで、なぜ金額が「減って見える」のか。身近な例で考えます。
同じ月給30万円をもらっていても、円が安くなれば、ドルに直したときの金額は小さくなりますよね。働きぶりも給料も変わっていないのに、「ドルで見ると減った」という状態です。
エジプトも同じです。自国通貨(エジプトポンド)で見れば国防費はむしろ増えているのに、そのポンドが大きく値下がりしたせいで、ドルに直すと小さく見える。グラフの”減少”の正体は、軍の縮小ではなく、通貨の目減りなのです。
落ちているのは、ドルに換算した金額です。2016年と、2022年から続く通貨危機で、エジプトポンドは大きく切り下げられました。昨日今日の話ではありません。私がこのコラムでも繰り返しお伝えしてきた通り、2025年にはついに1ドル55ポンドの史上最安値を更新しています。
つまり、ポンド建ての予算や実際の戦力(ラファールの追加発注、フランス製のヘリ空母やフリゲート、ドイツ製潜水艦の導入…)はむしろ拡張を続けているのに、「ドルという物差し」で測ると縮んで見える。これは、エジプトという国全体の数字を読むときに、投資家が絶対に外してはいけない視点だと私は考えています。
世界から見たエジプト軍――145カ国中19位、その中身
世界で最も参照される軍事力指標のひとつ、Global Firepower(2026年版)で、エジプトは世界145カ国中19位。アフリカでは堂々の1位です。
私が面白いと思うのは、総合順位そのものよりも「中身」です。個別カテゴリーで世界トップ10に入っているものを並べると、戦車(6位)、自走砲(6位)、攻撃機(7位)、攻撃ヘリ(7位)、フリゲート(6位)、機雷戦艦艇(6位)、ヘリ空母(4位)、そして準軍事組織(7位)。
見えてくるのは、「正面からの数と火力で押す、分厚い軍隊」という姿です。
逆に、持っていないものもはっきりしています。正規空母ゼロ、駆逐艦ゼロ、空中給油機ゼロ。遠い海の向こうまで戦力を投射する「外征型」ではなく、自国と周辺――とりわけスエズ運河を守り抜くための軍隊なのだと、数字が語っています。
中東アラブの中のエジプト――なぜ「アラブ最強」なのか
では、ご近所と比べてどうか。ここが今日の本題です。
Global Firepowerのランキング上、エジプトはアラブ諸国の中で最上位です。産油国マネーで装備を揃えるサウジアラビア、アルジェリア、イラク、UAE――こうしたアラブの軍事大国を、総合順位で上回っています。兵力の厚み、戦車や砲の数、そして自前で動かせる陸軍の規模。この「総合力とスケール」で、アラブ世界の頂点に立っているわけです。
ただ、公平に申し上げます。中東全体で見れば、アラブではない国――トルコ、イスラエル、イランは、それぞれ違う強みで存在感を放っています。NATO第2の規模と国産兵器のトルコ。質と技術で尖るイスラエル。弾道ミサイルと非対称戦のイラン。「エジプトが中東で全部一番」ではありません。
それでも、アラブ世界という枠の中では、エジプト軍は長く揺るがぬ筆頭格であり続けています。人口1億人超という土台、米・仏・露を使い分ける装備調達の柔軟さ、そしてスエズという地政学的な切り札。これらが、エジプトを「アラブ最強」たらしめているのだと私は見ています。
中東の安定は、なぜエジプトが「要(かなめ)」なのか
ここまで「強さ」を見てきました。でも私が本当にお伝えしたいのは、その強さが中東全体にとってどういう意味を持つか、です。
エジプトは、ただ軍が大きいだけの国ではありません。アラブ連盟の本部はカイロに置かれ、イスラエルと平和条約を結ぶ数少ないアラブの大国であり、ガザをめぐる停戦交渉では今も仲介役を務めています。そしてスエズ運河と、その先の紅海の出口(バブ・エル・マンデブ海峡)という、世界の物流の急所を押さえている。
つまりエジプトは、中東という不安定になりがちな地域で、「大きくて、動かない土台」の役割を果たしているのです。
なぜ本部がカイロなのか。それは、この連盟がそもそも1945年にカイロで生まれ、エジプトが創設メンバーの中心だったからです。人口も、文化(映画・音楽・報道)も、政治的な発信力も、エジプトは長くアラブ世界の中心でした。
面白いのは、1979年にエジプトがイスラエルと平和条約を結んだ際、他のアラブ諸国が反発し、本部は一時チュニジアへ移されたこと。それでも約10年後、エジプトは連盟に復帰し、本部もカイロへ戻りました。一度は追い出されても、結局そこへ戻ってくる――この一件こそ、エジプトがアラブ世界で代えのきかない”要”であることの何よりの証明だと私は思います。
それが最もはっきり出たのが、2015年です。
イエメンの内戦に、サウジアラビアが主導する有志連合が軍事介入した「決戦の嵐」作戦。このとき参加を求められた中心国のひとつが、エジプトでした。エジプトは空軍と海軍を投入し、紅海の重要な航路を守る役回りを担います。地上部隊についても、当時のシシ大統領は「必要であれば派遣する」と明言しました。
湾岸の産油国は、お金も最新鋭の兵器も持っています。それでも、いざ地域の安全が揺らいだとき、「数と人を出せる軍隊」として頼りにしたのがエジプトだった。この一件は、エジプトが中東の安全保障で占める位置を、何よりも雄弁に語っていると私は思います。
有志連合/決戦の嵐…サウジが近隣国に声をかけて組んだ軍事チームと、その作戦名です。エジプトはここに空軍・海軍で加わりました。
バブ・エル・マンデブ海峡…紅海の南の出口にある、幅のせまい海の関所。ここが止まると、スエズ運河を通る船も行き場を失います。だからエジプト軍が海の守りに加わる意味は、とても大きいのです。
そして、ここが投資家として見逃せないところです。サウジやUAEといった湾岸の富裕国が、長年エジプトを資金面で支え続けているのは、慈善事業ではありません。エジプトという「地域の重し」が安定していることが、中東全体の、ひいては自分たちの投資環境の安定につながる。彼らはそれを分かっているから、お金を出すのだと私は見ています。
強い軍が守っているのは、国境だけではありません。私たち外国人投資家が置いた資産を乗せる「土台そのもの」を、エジプト軍は守っている。私はそう見ています。
Global Firepowerの順位は、人員・装備の「数」を中心にした総合指数です。実戦での強さ、兵器の新しさ、訓練・運用の練度、同盟関係までを完全に反映したものではありません。順位は目安として受け止めてください。
国防費のドル建てデータ(SIPRI)は、通貨の切り下げの影響を強く受けます。本稿の推移グラフが示すのは「ドルで測った額」の増減であり、実際の軍備の拡縮とは必ずしも一致しません。指標によっては国防費を異なる額で示す場合があります。
軍事力の強さは、投資リターンを直接保証するものではありません。治安や政治の安定は投資環境の一要素にすぎず、為替・財政・個別案件のリスクは別途ご検討ください。
私が今日のデータで一番立ち止まってほしいのは、戦車の数でも順位でもありません。「国防費が、ドルで測ると半分近くに縮んで見えた」という、あの一点です。
軍は縮んでいないのに、ドル換算では縮む。これは軍だけの話ではありません。エジプトの不動産も、物価も、GDPも、同じ「通貨の切り下げ」という力を受けています。だからこそ、円やドルを持つ私たち外国人には、現地の価値が割安に見える瞬間が生まれる。1ドル55ポンドという史上最安値は、裏を返せばそういうことです。
私なら、ここで「エジプトは通貨が弱いから危ない」で止めません。アラブ最強の軍が国の土台を支え、人口1億人が成長を続けている国の資産を、安くなった通貨で仕込めるタイミングとして見ます。もちろん、全額を一国・一通貨に賭けるのではなく、です。
結局いつもの結論に戻ります。日本円だけに依存せず、外貨と海外の実物資産へ分散しておくこと。通貨が動く時代に資産を守る軍備とは、私たちにとっては「分散」なのだと、私は確信しています。
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公式LINEで相談するGlobal Firepower「2026 Military Strength Ranking(Egypt)」2026年
SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)軍事費データベース(ドル建て・名目)2005〜2025年
各種報道によるエジプト軍の装備調達動向(ラファール等)2026年
