
MLP INVESTOR COLUMN | 日本・不動産
首都圏の新築マンション単価が16カ月ぶりに下落し、初月契約率は6カ月連続で7割を割り込みました。都心の中古は値下げしても売れにくくなり、10月には変動金利の見直しが控えています。4つの公表データをつなぎ、日本不動産に出始めた変調を冷静に読み解きます。
「日本の不動産はまだ上がる」。この数年、そう言い切る声が大半でした。実際、首都圏の新築マンション価格は記録更新を続け、2026年上半期の平均価格は初めて1億円台に乗りました。
ところが9月に入って公表された複数のデータには、これまでとは違う動きが混ざり始めています。一つひとつは小さな変化ですが、並べてみると同じ方向を指しています。本稿では、新築・中古・金利・地価という4つの公表データをもとに、何が起きているのかを整理します。
目次
8月の首都圏新築、単価が16カ月ぶりに下落
不動産経済研究所が9月17日に発表した8月の首都圏(1都3県)新築分譲マンション市場動向は、主要指標がそろって前年を下回りました。
供給戸数:1,140戸
前年同月比12.4%減。2カ月ぶりの減少で、東京都区部は30.7%減の478戸にとどまりました。
初月契約率:61.1%
前年同月比4.0ポイント低下。好不調の目安とされる70%を6カ月連続で下回りました。都下は10%台と極端に低調です。
平均価格:9,770万円
前年同月比5.4%下落。5カ月ぶりの下落です。
㎡単価:144.4万円
前年同月比9.1%下落。16カ月ぶりの下落となりました。
ただし、この数字だけで「価格の天井が確定した」と判断するのは早計です。8月は単価の高い都区部の供給が3割減っており、その構成の変化が平均を押し下げた面があります。神奈川・埼玉・千葉では平均価格・単価ともに上昇しました。前月の7月には、都区部の大規模物件の販売開始によって平均価格が1億6,493万円と過去最高を更新しています。
むしろ注目すべきは、契約率の低迷が半年にわたって続いている点です。売れ残りは積み上がっており、首都圏の販売在庫は6月末に6,389戸(前年同期比363戸増)、7月末には6,597戸と2カ月連続で増えました。価格の上下は月ごとに振れますが、「発売しても初月で売り切れない」状態の長期化は、需要側の体力の変化を示しています。
都心5区の中古、値下げしても売れない
新築以上に変化がはっきり表れているのが、都心の中古マンションです。マンションリサーチ(福嶋総研)は8月14日、2022年1月から2026年6月までの東京都の中古マンション9万6,416事例を分析した結果を公表しました。
都心5区では、成約までの値下げ率が大きくなっているにもかかわらず、販売日数も伸びています。価格を下げても、売却までの時間が短くならない状態です。在庫が増えているのは、千代田区・中央区・港区を中心とした高額・大規模・タワーマンションでした。1棟で数百戸から1,000戸を超える物件もあり、1つのマンションで売り出しが数十戸増えるだけで、都全体、さらには首都圏全体の在庫統計を押し上げています。
一方で、都心5区を除く23区では、値下げによって販売日数はおおむね維持されており、平均成約価格は6,400万円前後で推移しています。埼玉・千葉・神奈川の在庫はむしろ減少傾向です。つまり起きているのは「首都圏全体が売れなくなった」ことではなく、最も高い価格帯での局所的な流動性の低下です。
価格が下がることより怖いのは、「売りたいときに売れない」ことです。流動性の低下は、価格指数よりも先に現れます。
10月、変動金利の見直しで返済額はどう変わるか
高額物件の買い手が減っている背景の一つが、金利です。日本銀行は6月16日の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1%に引き上げました。1995年以来、約31年ぶりの水準です。
変動金利型の住宅ローンは、政策金利の変更が短期プライムレートを通じて数カ月遅れで反映されます。三菱UFJ銀行は8月3日に短期プライムレートを引き上げ、9月から変動金利の基準金利を見直すと公表しました。みずほ銀行のみずほ総合研究所調査部は、多くの金融機関が10月に変動金利を0.25%ポイント程度引き上げると予想しています。
問題はその先です。同レポートは、日銀が2027年前半にかけて政策金利を1.75%程度まで引き上げる可能性が高いとみており、その場合、利上げ前に0.95%だった変動金利(主要都市銀行の最低値)は単純計算で1.95%に達します。
試算の前提
借入4,000万円・返済期間35年の変動金利型。当初0.95%で借り入れ、返済2年目に1.95%へ上昇(5年ルール・125%ルール適用)。
毎月の返済額:11.2万円 → 13.4万円
1~5年目は据え置かれますが、6年目に急増します。据え置き期間中も利息の割合が高まり、元金が減りにくくなります。
35年間の総返済額:4,703万円 → 5,490万円
金利が上がらない場合と比べて786万円の増加です。
固定金利も安全地帯ではありません。同レポートによれば、代表的な固定金利であるフラット35の金利はすでに3%を超えています。さらに、一人当たり賃金を住宅価格で実質化すると、2010年を100として2025年には75まで低下しており、住宅価格に対して賃金が約25%目減りした計算です。
金利の上昇は、借入可能額を直接縮めます。1億円、2億円といった価格帯ほど、ローンを使える買い手の層は薄くなります。前章で見た都心高額物件の販売長期化は、この構造と整合的です。
基準地価「5年連続上昇」の裏で、3分の1の地点が下落
国土交通省が9月15日に公表した令和8年の都道府県地価調査(基準地価、7月1日時点)は、全用途平均で1.5%の上昇でした。住宅地は1.0%、商業地は2.9%の上昇で、いずれも5年連続のプラスです。三大都市圏の全用途平均は4.4%と伸びが拡大しました。
見出しだけを見れば、地価は順調に上がっているように見えます。しかし日本経済新聞の集計では、全国2万828の調査地点のうち上昇は49.9%で、下落は34.4%、横ばいは15.7%でした。3地点に1地点は、いまも値下がりしています。建築費の高騰を背景に、名古屋や札幌など地方都市の伸びは鈍化しました。
なお国交省は、令和8年熊本地震と8月の千葉豪雨の影響は今回の調査に反映されていないと注記しています。災害リスクが価格に織り込まれるのは、次回以降の調査になります。
4つのデータをつなぐと見えるもの
ここまでの数字を一本の線でつなぐと、次のような構図が浮かびます。金利の上昇によって借入可能額が縮み、最も高い価格帯から買い手が減っています。その結果、都心の高額中古は値下げしても売れにくくなり、新築も発売初月に売り切れない状態が半年続いています。地方では建築費の高騰が上昇の勢いをそぎ、全国の3分の1の地点では地価の下落が続いています。
一方で、これを「日本不動産の暴落の始まり」と読むのも正確ではありません。都心5区以外の23区や周辺3県では、価格調整を伴いながらも取引は成立しています。人件費や資材費の上昇を考えると、新築価格の上昇が続く可能性も十分にあります。みずほのレポート自身も、都心の一部で価格下落の動きがあるとしつつ、今後も住宅価格の上昇が続く可能性が高いとしています。
起きているのは全面的な下落ではなく、「流動性の二極化」です。売れる物件と売れない物件、借りられる人と借りられない人の差が、金利上昇によって広がり始めています。投資家にとって重要なのは、平均値ではなく、自分の資産がどちら側にあるかです。
⚠ 数字を読むときの注意点
新築マンションの月次データは、その月に発売された物件の立地や規模で大きく振れます。1カ月の単価下落だけで相場の転換と判断するのは避け、契約率や在庫の推移とあわせて確認してください。
変動金利の「5年ルール」「125%ルール」は返済額の急増を抑える仕組みですが、金利上昇分の支払いを先送りしているにすぎません。金融機関によってはこれらのルールがない商品もあり、未払利息が発生する場合もあります。ご自身の契約内容を必ず確認してください。
本記事は公表データに基づく情報提供を目的としたもので、特定の売買を勧めるものではありません。
💡 投資家としての視点
すでに保有している方は、ローンの金利タイプと残債、そして「売ると決めたら何カ月で売れるか」を一度確認しておく価値があります。特に都心の高額・大規模物件では、想定売却期間を長めに見積もることが現実的です。
これから購入を検討する方は、価格だけでなく流動性を評価軸に加えてください。同じ価格帯でも、売却時に買い手がどれだけいるかで出口の難易度は大きく変わります。
資産全体で見れば、住宅ローン・不動産・預金・給与のすべてが円と日本の金利に連動している方は少なくありません。日本の金利上昇は一つのシナリオにすぎませんが、一つのシナリオに資産のほぼすべてが依存している状態は、見直す余地があるかもしれません。
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出典・参考資料
・不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2026年8月」(2026年9月17日発表、野村不動産ソリューションズ「不動産投資ニュース」2026年9月18日掲載分より)
・不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2026年7月」(2026年8月20日発表)
・不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2026年上半期(1~6月)」(2026年7月発表)
・マイナビニュース「首都圏の中古マンション『在庫増』、都心の”高額物件”に集中か」(2026年8月17日、マンションリサーチ/福嶋総研の分析に基づく)
・みずほ銀行 みずほ総合研究所調査部「みずほ経済EXPRESS 金利・価格上昇で負担増す住宅購入」(2026年7月2日)
・三菱UFJ銀行「住宅ローンの金利は今後どうなる?」(2026年7月3日)
・国土交通省「令和8年都道府県地価調査の概要」(2026年9月15日)
・日本経済新聞「基準地価5年連続上昇 建築費高騰で名古屋や札幌など地方は伸び鈍る」(2026年9月15日)
