Vol.1868:スエズ運河の収入は、まだ最盛期の「半分」。それでもエジプトの経常赤字は45%縮小し、IMF支援プログラムは今年末に”卒業”を迎えます。

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

Vol.1868|エジプト経済

スエズ運河の収入は、まだ最盛期の「半分」。
それでもエジプトの経常赤字は45%縮小し、IMF支援プログラムは今年末に”卒業”を迎えます。

──運河が止まっても崩れなかった国の、次の設計図を数字で読み解きます。

テーマ スエズ運河・エジプト経済・IMFプログラム終了
対象読者 エジプト投資(銀行口座・国債・不動産)を検討中の方
重要度 ★★★★★(エジプトの中期シナリオを左右する転換点)

「スエズ運河はまだ5割」という報道の、その先へ

日経新聞などでも報じられている通り、スエズ運河の船舶通航量は、紅海危機前の5〜6割の水準にとどまっています。

2023年に停戦が伝えられた後も、大手海運会社は商船攻撃を警戒して喜望峰ルートの迂回を続けており、全面的な正常化にはまだ時間がかかる見通しです。

これだけを聞くと、多くの人はこう思うはずです。

『外貨収入の柱が半分になって、エジプト経済は大丈夫なの??』

結論から言います。大丈夫どころか、経常赤字は前年から45%も縮小しています。

今日は「運河が半分でも崩れなかった理由」と、今年末に迫った「IMF卒業」後のエジプトの設計図を、最新の数字で解説していきます。

運河収入:94億ドル → 39億ドル → 46.7億ドルの現在地

まず、スエズ運河の収入推移を確認しましょう。

年度 運河収入 状況
2022/23年度 94億ドル 過去最高を記録
2024年 約39億ドル 紅海危機で通航船舶50%減・貨物64%減
2025/26年度 46.7億ドル(前年比+23%) 通航+10%・貨物+22%と回復基調へ

スエズ運河庁のラビーア長官が6月末に発表した2025/26年度の収入は46.7億ドル(前年比+23%)。回復は始まっていますが、最盛期94億ドルと比べれば、文字通りまだ「半分」です。

世界貿易の12%を担う大動脈が半分の稼働で、なぜエジプトは平気なのでしょうか?

運河が「半分」になっている間に、
海外送金は「過去最高の415億ドル」まで伸びていた。
──これが、エジプトが崩れなかった最大の理由です。

穴を埋めたのは「送金」と「観光」──数字が語る構造転換

エジプトの外貨収入は伝統的に『運河・観光・送金』の3本柱と言われてきました。運河が欠けた穴を、残り2本が埋めるどころか、お釣りが来るレベルで伸びています。

外貨収入源 最新実績 前年比
海外労働者送金(2025年暦年) 415億ドル(史上最高) +40.5%
観光収入(25/26年度上半期) 102億ドル +17.3%
スエズ運河(25/26年度) 46.7億ドル +23%(回復途上)

特に注目すべきは送金です。415億ドルという数字は、運河の最盛期収入(94億ドル)の4倍以上。エジプト中銀の金準備(約165億ドル)すら上回り、現地では『エジプトの無尽蔵の鉱山』とまで呼ばれています。

なぜ送金がここまで急増したのか?

答えは、2024年3月の為替レートの完全自由化です。それまで送金は闇レートの方が有利だったため、公式ルートを通らず統計に表れませんでした。自由化で闇市場が消滅した結果、送金が銀行経由の公式ルートに戻ってきたのです。

つまりこの数字は、単なる景気の追い風ではなく、『痛みを伴う改革が機能している証拠』そのものです。この結果、2025/26年度第1四半期の経常赤字は59億ドル→32億ドルへと45.2%も縮小しました。

そして今、世界中の「工場」がエジプトに集まっている

さらに、エジプトには送金・観光に続く『第4の柱』が急速に育っています。それが製造業の輸出です。

まず、新たに操業を開始した工場の数を見てください。

年度 新規稼働工場数
2022/23年度 23,406件
2023/24年度 29,216件
2024/25年度 32,503件

毎年10%以上のペースで新しい工場が稼働し続けています。そしてこれは、地場企業だけの話ではありません。世界中のメーカーが、いまエジプトに製造拠点を作っているのです。直近の進出・稼働事例を並べてみましょう。

企業 動き
🇯🇵 日本 住友電装 2025年5月、ワイヤーハーネス新工場を開所(欧州の自動車工場向け)
🇯🇵 日本 矢崎総業 エジプト第1号工場の起工式を開催(自動車部品)
🇯🇵 日本 大塚製薬 オロナミンC工場が竣工、エジプト発で中東への輸出を開始
🇯🇵 日本 シャープ/東洋一通商 地場最大手エルアラビと合弁で家電新工場・ガラス工場が稼働
🇩🇪 ドイツ レオニ(LEONI) 2025年12月、車載部品の新工場を開所し生産能力を拡大
🇹🇷 トルコ ベコ(BEKO) 1.1億ドルを投じカイロ近郊に家電の工業団地を開設
🇨🇳 中国 吉利汽車(Geely) 中東・アフリカ初となる完成車組み立てをエジプトで開始
🇨🇳 中国 賽輪集団(SAILUN) タイヤ工場の建設契約に署名、2026年中の稼働を目指す
🇰🇷 韓国 ほか サムスン電子・LG・ハイアール・美的集団 世界の家電大手がすでに製造拠点を構え、生産を拡大中

自動車、家電、部品、タイヤ、飲料──業種も国籍もバラバラの企業が、揃ってエジプトに工場を建てています。なぜか?理由はシンプルです。

①豊富で安価な労働力とエネルギーコスト(人件費・電気代はトルコやモロッコより低水準)
②EU・湾岸諸国・アフリカと結ぶ80以上の貿易協定(エジプトで作れば、3大市場に関税優遇で輸出できる)
③通貨切り下げで輸出競争力が劇的に向上(「エジプトで作って外貨で売る」が最も儲かる構造に)

そして、その工場群が稼働を始めた結果が、輸出の数字にハッキリと表れています。

2025年のエジプトの非石油輸出は486億ドル(前年比+17%)と過去最高を記録。機械・電子などのエンジニアリング製品輸出も65億ドルと史上最高で、機械+30%、家電+15%、自動車部品+15%と軒並み2桁成長。この輸出増によって貿易赤字は9%縮小しました。豊田通商・日本郵船が参画するエジプト初の完成車専用ターミナルも開業し、「作って、運んで、輸出する」インフラまで整い始めています。

『エジプト=観光の国』というイメージはもう古い。『中東・欧州・アフリカに輸出する世界の工場』へと、姿を変えつつあるのです。

IMF「卒業」まであと半年──ポストIMFの設計図

そして、もう1つの大きな転換点が迫っています。

2024年に拡大されたIMFの支援プログラムが、2026年末に終了するのです。

これを見据えてエジプトの新内閣では、経済担当副首相のポストが新設され、マクロ経済の改善と公的債務の削減に取り組む体制が整えられました。シシ大統領が新内閣に指示した中身がまた興味深く、次の成長分野として名指しされたのは──

『テクノロジー』と『鉱業(レアアースなど)』

さらに国有企業の民営化を進める国家所有政策と、民間部門の拡大が明確に指示されています。「IMFに支えられる国」から「自前の外貨と民間投資で自走する国」へ。国家の設計図が書き換わりつつあるのです。

ちなみにIMF自身は、紅海情勢の正常化に伴い、スエズ運河収入が2029/30年度には119億ドル(過去最高超え)まで回復すると予測しています。つまり今のエジプトは『運河抜きで黒字化に向かう体質』を作った上で、運河のフル回復という上乗せ分をこれから受け取るポジションにいるわけです。

⚠ 注意点
紅海情勢の再悪化、原油価格の急変、為替(エジプトポンド)の変動リスクは引き続き存在します。IMF卒業後は財政規律が市場から直接評価されるため、改革の手が緩めばポンド安が再燃するシナリオもゼロではありません。投資判断は必ず余裕資金・分散を前提に行ってください。

💡 投資家へのインサイト

「最大の収入源が半減する」という最悪級のストレステストを、エジプトは送金・観光・そして製造業の輸出で乗り切りました。世界中の工場が集まり、輸出が過去最高を更新している国──危機の最中に構造が強くなった国は、危機が明けた時に最も伸びます。エジプト短期国債(20%前後の高金利)や、工場労働者・駐在員の住宅需要を吸収する新首都の不動産は、まさに『IMF卒業前の今』が仕込みのタイミングと言えます。弊社ではエジプト銀行口座の開設から国債運用、不動産の分割払いスキームまで一気通貫でサポートしています。

相変わらず『エジプトなんて運河と観光しかない国でしょ??』と小馬鹿にする人がいますが、数字はハッキリと示しています。運河が半分でも回る経済を、エジプトはすでに作り上げたのです。

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出典・参考

・Suez Canal Authority/Ahram Online「Suez Canal revenue rises 23% to $4.67 billion in FY 2025/26」(2026年6月)
・Central Bank of Egypt「Remittances from Egyptians Working Abroad Record USD 41.5 Billion During 2025」(2026年2月)
・CBE 国際収支統計(2025/26年度上半期:観光収入102億ドル・経常赤字縮小)
・JETROビジネス短信「エジプトの新内閣が発足、大統領は経済開発への注力を指示」(2026年2月)
・エジプト投資・貿易省/GOEIC「2025年 非石油輸出486億ドル(+17%)・貿易赤字9%縮小」(2026年1月)
・Engineering Export Council of Egypt「エンジニアリング輸出、過去最高の65億ドル」(2026年2月)
・JETRO地域・分析レポート「2025年の新車販売台数が前年比70%増加(エジプト)」(住友電装・レオニ・SAILUN・吉利ほか進出事例)
・JETROビジネス短信「トルコの家電大手ベコ、エジプトに生産進出」「大塚製薬、エジプトでオロナミンC工場竣工」
・日本経済新聞「船戻らぬスエズ運河、通航量なお5割」
・IMF 中東・北アフリカ地域見通し(運河収入2029/30年度119億ドル回復予測)

執筆者

埜嵜 雅治(Masa Nozaki)

Meti Lux Partners 代表|エジプト・ドバイ・ジョージア・ナイジェリアの投資を現地からサポート

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