Vol.1940:ドバイ不動産、引き渡しの先にある落とし穴──985戸のタワーに売り約300件・賃貸約380件、投資家が見るべき「出口」

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN | ドバイ / UAE 不動産
ドバイ不動産、引き渡しの先にある落とし穴
──985戸のタワーに売り約300件・賃貸約380件、投資家が見るべき「出口」
読了時間
約6分
対象読者
ドバイ・海外不動産への投資を検討している方/既に保有し出口を考えている方
この記事で分かること
新築の「引き渡しラッシュ」で何が起きるか/広告件数の正しい読み方/表面利回りと転売益に潜む落とし穴/購入前に確認すべき5つの視点

「ドバイの不動産は値上がりが続いている」——この数年、そうした言葉を何度も耳にされたと思います。実際、オフプラン(完成前)物件を買って完成時に転売する手法は、多くの日本人投資家の関心を集めてきました。しかし、投資判断で本当に難しいのは「買うこと」ではなく「売ること」、つまり出口です。今回は、2026年に完成・引き渡しが行われた実在のプロジェクトを題材に、引き渡しの「その先」で何が起きているのかを冷静に見ていきます。

題材:Sobha Hartland「Crest Grande」

今回取り上げるのは、大手デベロッパーSobha Realtyが手がけた「Crest Grande」です。MBR City・Sobha Hartland地区に建つ3棟・総戸数985戸の大規模プロジェクトで、2026年3月に完成証明書を取得、6月末にDLD(ドバイ土地局)登録上の完成日を迎えています。立地・デベロッパーの信頼性ともに、ドバイの新築物件としては上位に位置づけられる案件です。

デベロッパー・立地
Sobha Realty/MBR City・Sobha Hartland(ダウンタウンに近い人気エリア)
規模・完成時期
3棟・総戸数985戸/2022年着工、2026年6月末(DLD登録上)に完成
間取り
1〜4ベッドルーム

引き渡し直後、市場に起きていること

完成から約4か月が経った2026年10月時点、不動産ポータルサイトを確認すると、このプロジェクトでは次のような広告が出ています。

売却広告
約296〜303件(総戸数985戸に対し約30%)/価格帯 AED 130万〜2,580万
賃貸広告
Property Finder 約379件/Bayut 約302件(PF件数は総戸数の約38%)/年間 AED 79,900〜450,000

売りと貸し、合わせて数百件の広告が一つのプロジェクトに集中している——これが引き渡し直後の光景です。これは珍しいことではなく、オフプランで一斉に販売された大規模物件が完成を迎えたとき、所有者たちが「転売」や「賃貸運用」を同じタイミングで始めることで起きる、構造的な現象です。

みんなが同じ時期に買った物件は、みんなが同じ時期に売りたくなる。出口が一斉に混み合うことこそ、大規模オフプラン投資の最大のリスクです。

価格は下がっているのか

DLD登録データに基づく月別の成約単価(中央値)を見ると、2026年4月の約2,052 AED/sqftから9月の約1,936 AED/sqftへと、半年で約5.7%低下しています。ただし、これは同じ住戸の値動きではなく、各月に成約した異なる住戸の中央値を並べたものです。4月は成約が5件しかなく、少数の取引で数字が振れやすい点にも注意が必要です。

直近では、9月30日に2ベッドルームが1,747 AED/sqft(全体中央値より約1割安)で成約した事例も確認できます。ただし階数・眺望が不明なため、これだけを「投げ売り」と断定することはできません。

「転売で利益」は本当か

集計データ上、過去のオフプラン取引単価の中央値(約1,850 AED/sqft)に対し、完成後の転売単価中央値は約1,949 AED/sqft。差額は約99 AED/sqft、率にして+5.4%です。一見すると利益が出ているように見えます。

しかし、ドバイで不動産を取得する際にはDLD登録費用(物件価格の4%)が発生します。購入価格がAED 200万なら、それだけでAED 8万。これに仲介手数料などを加えると、転売価格が購入価格を5%程度上回っていても、手残りの利益はごくわずか、場合によってはマイナスになり得ます。しかも、この中央値比較は同一住戸の売買履歴ではないため、個々の投資家が実際に利益を出せたかは、購入時と売却時の契約書を突き合わせない限り分かりません。

表面利回りの罠

賃貸に回した場合はどうでしょうか。ポータル掲載ベースの平均表面利回りは約5.55%とされます。しかし、これはあくまで「募集家賃÷価格」の数字です。たとえば購入価格AED 500万・年間賃料AED 24万(表面利回り4.8%)の住戸で、管理費を仮に18 AED/sqftと置くと、管理費控除後の利回りは約3.95%まで下がります(管理費は市場掲載情報に基づく仮定で、実際の請求額ではありません)。ここに空室・修繕・仲介手数料・購入諸費用を加味すれば、実質利回りはさらに低下します。表面利回りだけで判断すると、収益性を過大評価することになります。

これは氷山の一角──2026〜2027年の「引き渡しの波」

ここまで見てきたCrest Grandeで起きていることは、決して特殊な事例ではありません。むしろ、これから数年にわたってドバイ全体で繰り返される現象の「先触れ」と捉えるべきです。理由は、今後の供給予測にあります。

ドバイの住宅引き渡し(完成)戸数は、2025年以降に急増が見込まれています。ある調査では、年間の予定引き渡し戸数は2026年に約7万戸と、過去5年平均(約3.5万戸)の2倍に達し、2027年もその高水準が続くと予測されています。2026年の引き渡しは、2008年以来で最も多くなるとの見方もあります。

ドバイの年間引き渡し予定戸数の予測。2026年に約7万戸でピーク。Crest Grande 985戸は全体の約1.4%にすぎない。
図:ドバイの年間引き渡し予定戸数の推移(予測)。出典:Morgan’s International Realty「Dubai Residential Supply & Delivery Outlook 2025–2027」。

この図が示す意味は重いものです。Crest Grandeの985戸は、2026年の予定供給のわずか約1.4%にすぎません。言い換えれば、今あなたが目にしている「売り約300件・賃貸約380件」という光景は、同じ規模のプロジェクトが数十件分、今後2〜3年の間に次々と引き渡しを迎えるということです。引き渡しのたびに、所有者たちの売り・貸しが市場へ一斉に供給されていきます。

もちろん、この予測には重要な留保があります。近年のドバイでは、計画された物件が予定どおりに完成する割合は48〜62%程度にとどまり、工期の遅延で実際の供給は予測を下回る傾向があります。つまり、図の戸数がそのまま市場に出るわけではありません。それでも、遅延を織り込んでなお、過去平均を大きく上回る供給が数年続く構図は変わりません。遅延はピークを「なだらかにずらす」だけで、波そのものを消すものではないのです。

Crest Grandeは「終わった事例」ではなく、「これから各地で始まることの予告編」です。供給の波が続く数年間は、売り手も貸し手も、これまで以上に厳しい競争にさらされます。
⚠ この記事を読むうえでの留意点

本記事の数字は、特定時点のポータル広告件数とDLD登録データに基づく参考値です。次の点にご注意ください。

・広告件数は空室数ではありません。同じ住戸を複数の不動産会社が掲載していることが多く、「30%が売りに出ている」「38%が空室」とは断定できません。

・実際の居住率は未確認です。985戸のうち何戸が引き渡し済みか、Ejari登録された有効な賃貸契約が何戸あるかは把握できていません。実際に複数の賃貸成約も確認されており、「ほとんど人が住んでいない」とは言えません。

・価格の中央値は同一住戸の値動きではありません。月ごとに成約した別々の住戸を比べたものです。

💡 投資家への視点──ドバイ不動産とどう向き合うか

① 買う前に「出口」を設計する。いくらで売れるかではなく、「売りたいとき、同じ物件が何件市場に並んでいるか」を想像する。流動性こそが利益を左右します。

② 大規模プロジェクトの供給集中を見込む。戸数が多いほど、引き渡し時に売り・貸しが一斉に出ます。希少性のある中小規模物件とは出口の混み方が違います。

③ 利回りは「諸経費控除後」で見る。表面利回りではなく、管理費・空室・諸費用を引いた後の数字で判断する。

④ 転売益は諸費用で消えると考える。価格が5%上がっても、DLD4%+仲介手数料で手残りはわずか。短期転売ありきの計画は危うい。

⑤ データの限界を理解する。広告件数・中央値・表面利回りは「目安」であり、確定情報ではない。数字の出どころと前提を必ず確認する。

ドバイ不動産そのものを否定する話ではありません。立地・デベロッパー・需要の実在など、評価できる点は確かにあります。伝えたいのは、「値上がりストーリー」だけで判断せず、引き渡しの先に待つ現実——供給の集中、諸費用、流動性——まで織り込んで初めて、健全な投資判断になるということです。買う前に出口を考える。これに尽きます。

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出典:Sobha Realty プレスリリース(Crest Grande 完成・引き渡し/2026年)/Dubai Data(Sobha Hartland – Crest Grande プロジェクト集計、2026年10月12日までの登録データ)/Property Finder・Bayut 掲載情報(2026年10月時点)/Dubai Wealth Index(Crest Grande 価格集計)/Morgan’s International Realty「Dubai Residential Supply & Delivery Outlook 2025–2027」/Cushman & Wakefield Core 市場レポート(2026年)

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