Vol.1913:2日で4円の円高は「利確」ではない──9月の3連戦が円の行方を決める

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN|日本/為替
今年7月に164円へ迫ったドル円は、28年ぶりの円買い協調介入で155円へ。
そして9月初、たった2日で4円の円高——これは「期末の利確」なのか、それとも別の何かなのか。
この夏の値動きをまず時系列で整理し、9月の急変の”本当の理由”と、相場の帰趨を決める3つのイベントを読み解きます。
読了時間
約6分
対象読者
円建て資産の比率を見直したい方/為替のタイミングに悩む方
この記事で分かること
①この夏のドル円の全記録 ②9月の急な円高の”本当の理由” ③相場を左右する3つのイベント

まず、この夏のドル円に「何があったか」を時系列で

9月に入ってからの急な円高を語る前に、今年7月から今日までの流れを整理しておきます。ここが頭に入っているだけで、足元の動きの意味がまったく違って見えてきます。

【7月】164円目前 → 28年ぶりの円買い協調介入。7月に入るとドル円は一時164円に迫り、7月28日には163円91銭を付けました。ところが7月30〜31日、日米当局が円買い方向で協調介入に踏み切ります。円買いでの日米協調は1998年以来、実に約28年ぶり。7月30日だけで推計8.45兆円規模とされ、ドル円は163円台から8月3日にかけて一時155円台まで急落しました。同じ7月31日、日銀は政策金利を1.0%程度で据え置いています(賛成8・反対1、利上げ提案は否決)。

【8月】介入ショックを消化する”凪”の1カ月。8月は方向感の乏しいレンジ相場でした。値幅は156円68銭〜159円70銭とわずか3円ほど。8月21日には158円70銭まで戻し、7月末の下げ幅の3割弱を回復した水準で落ち着きます。市場の関心は、8月末に公表される介入額と9月初の外貨準備高——つまり「当局はどれだけ弾を使い、あとどれだけ残っているのか」に集まっていました。

【9月】たった2日で4円の円高。そして9月3〜4日、相場が再び動きます。9月4日には一時155円49銭まで下落し、テクニカル指標のRSIは28台と”売られすぎ”圏に。ここで多くの人が「欧米ファンドの期末の利益確定(利確)が出たのだろう」と考えました。しかし——本当にそれだけでしょうか。

動いたのは「ドル」ではなく「円」だった。
そして引き金は暦(カレンダー)ではなく、政策だった。

そもそも「主語」はドルではなく円だった

最初に切り分けるべきは、動きの主語がドルなのか円なのか、です。今回、円はドルだけでなく主要通貨すべてに対して上昇しました。9月3日にはユーロ円183円14銭、ポンド円213円11銭、豪ドル円113円22銭まで全面高。一方でドル指数(DXY)は99台と軟調ながら崩れてはいません。

これは「ドルが売られてドル円が下げた」のではなく、円そのものが買い戻された動きです。もし欧米ファンドのドル円ショート利確が主因なら、動きはドル円だけに偏るはず。ところが実際はクロス円が全面高。つまり特定ペアの需給ではなく、“調達通貨としての円”全体が再評価された——これが出発点です。

「期末の利確」では説明できない4つの事実

「期末フローの利確が一巡すれば落ち着く」という見立ては、いくつもの事実と整合しません。

① オプション市場が「イベント警戒」の顔つき
予想変動率が短い満期ほど高い”逆イールド”構造に。1週間物が一時11%台まで跳ね、目前のイベントへの警戒を市場が価格に織り込んでいる証拠です。予定された一過性の需給ではこうはなりません。
② 加速させたのは200日線割れ
約158.4円の200日移動平均線を明確に割ったことで、トレンド追随勢(CTA)の機械的な売りが発動。下げ足が一気に加速しました。これは”裁量的な利確”ではなく、節目割れによる自動売りです。
③ 国内個人はむしろ”抵抗勢力”
本邦個人は下落するドル円を逆張りで買い向かっており、円高にブレーキをかける側。国内フローが円高を作った、という線は消えます。
④ 要人発言ひとつで即反転する感応度
9月4日、財務相の発言で日本の利上げ・財政健全化期待が後退すると、ドル円は即座に156円台半ばまで反発。暦の機械的フローが主因なら、一言で方向は変わりません。この相場は明らかに政策・政治ナラティブで動いています。

本当の引き金——政策トリガーと「キャリーの巻き戻し」

では何が動かしたのか。核心は、米財務省の円高圧力と、日銀の追加利上げ観測という政策トリガーです。そしてそれが、長年積み上がってきた円キャリー・トレード(低金利の円を借りて他資産で運用する取引)の巻き戻しに火をつけました。

重要なのは、円ショートの実体は先物データで見えるものよりはるかに大きい、という点です。円を調達通貨とするポジションの総量は統計上に現れる数字を大きく超えます。つまり「巨大な円ショートの巻き戻し」という直感は正しい。ただしその正体は“期末の計画的な利確”ではなく、”日本の金利が上がる=キャリーの前提が崩れる”という観測に強制的に解かれた巻き戻しです。そこに200日線割れとオプション勢のヘッジ買いが重なり、多層的に増幅された——これが実態に最も近い姿です。

さらに2026年は珍しい構図です。FRBは利下げどころか利上げの可能性を抱え、日米ともに引き締め方向。9月4日発表の米8月雇用統計が強かったことで米利上げ観測はむしろ高まりました。純粋なドル安でも純粋な円独歩高でもなく、円買いの勢いが一時的にドル側の材料を上回った”両面”の動きなのです。

相場の帰趨を決める「9月の3連戦」

結論として、この相場の行方は暦ではなく、9月に集中する3つのイベントに集約されます。オプション市場の逆イールドは、まさにこの三連戦のリスクを警戒しています。

9/11
米8月CPI(消費者物価指数)——利上げ観測の強弱を左右
9/15-16
FOMC——「据え置き」か「利上げ」かの接戦
9/17-18
日銀会合——追加利上げ観測が円の再評価を左右

ポジションや判断の軸は、「期末を通過したかどうか」ではなく、この3つの結果に置くのが合理的です。

⚠ ここに注意
「利確が一巡したから落ち着く」という説明で安心するのは危険です。今回の主因は暦ではなく政策トリガー。3連戦の結果次第では、円高・円安どちらにも大きく振れ得ます。数字だけを見て”底打ち””天井”を決め打ちしないことが肝要です。
💡 投資家の視点
為替の”方向当て”に賭けるより、どちらに振れても耐えられる通貨バランスを持つことが本質です。円建て資産に偏っているなら、外貨建て資産や海外口座での分散は、こうしたイベント集中局面こそ効いてきます。相場を予測するのではなく、相場に振り回されない設計を——これが富裕層の発想です。
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出典:外為どっとコム マネ育チャンネル(2026年8月・9月レポート)/日本経済新聞 為替マーケット/野村ウェルスタイル(2026年7月31日)/ECB参照レート/BIS・CFTC統計等。
※本コラムは情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。最終的なご判断はご自身の責任でお願いいたします。

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