Vol.1904:たった2つの一族が握る「237億ドル」──エジプト財閥の地図を、投資家はこう読む

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN | EGYPT
たった2つの一族が握る「237億ドル」
──エジプト財閥の地図を、投資家はこう読む
読了時間 約7分
対象読者 エジプトの不動産・株式・現地経済への投資を検討する方
この記事で分かること エジプト経済を実質的に動かす主要財閥の顔ぶれと規模、そして投資家がその「地図」をどう活用するか

「エジプト経済はどうですか?」——投資を検討される方から、最も多く受ける質問のひとつです。GDP成長率、外貨準備、ポンド相場。数字で語る方法はいくつもあります。しかし現地で事業に携わる立場から申し上げると、この国の経済を最短で理解する道は、実はマクロ指標ではありません。「いくつかの一族の名前を覚えること」——これに尽きます。

新興国の多くがそうであるように、エジプトの民間経済は少数の大財閥に強く集中しています。建設、通信、肥料、鉄鋼、電機、自動車、金融、そして不動産。基幹産業のほとんどで、いずれも「数えるほどの家系」が中核に座っている。今回は、そのエジプト財閥の全体像を、投資家の視点から整理します。

まず押さえるべき「2つの王朝」

Forbes Middle Eastの2026年版によれば、エジプト国籍の億万長者(10億ドル以上)は6名。そしてその6名すべてが、たった2つの一族に属しているとされます。合計純資産は約237億ドル(約3.5兆円規模)。エジプトの富の頂点は、驚くほど狭い範囲に収斂しているのです。その2つとは、サウィリス家(Sawiris)とマンスール家(Mansour)です。

サウィリス家 ── 肥料・通信・観光を束ねる「オラスコム」の系譜

サウィリス家は、コプト・キリスト教徒の家系です。1950年、故オンシ・サウィリス氏が創業した建設会社「オラスコム(Orascom)」を源流とし、そこから通信・観光・肥料・技術へと枝分かれしていきました。2026年のForbes Africaランキングでは、3兄弟合計の資産は約166億ドルと報じられ、アフリカで最も多角化した事業一族のひとつと評されています。

ナシフ・サウィリス(Nassef Sawiris)|約96億ドル
エジプト最大の富豪で、2026年時点でアフリカ第5位とされる人物。世界最大級の窒素肥料メーカーOCIグローバルと建設大手オラスコム・コンストラクションを率い、両社は2026年に統合が進められました。独アディダス株を約6%保有し、同社の会長就任も報じられています。英プレミアリーグのアストン・ヴィラFCの筆頭オーナーとしても知られます。
ナギーブ・サウィリス(Naguib Sawiris)|約38億ドル
通信で財を成した人物。2011年にオラスコム・テレコムをロシアのVimpelCom(現Veon)へ売却し、巨額の資金を手にしました。現在はオラスコム・インベストメント・ホールディングを率い、金鉱山投資(La Mancha)や不動産開発(ORA Developers)にも展開しています。
サミフ・サウィリス(Samih Sawiris)|観光開発
紅海のリゾート都市エル・グーナ(El Gouna)を筆頭に、モンテネグロ、スイスなどでリゾート開発を手がけるオラスコム・ディベロップメントの創業者。観光・不動産セクターで一族の一翼を担っています。

マンスール家 ── GM・キャタピラー・マクドナルドを回す「流通の巨人」

もう一方のマンスール・グループは、1952年に故ルトフィ・マンスール氏が綿花貿易として創業した一族企業です。売上高でエジプト第2位の規模とされ、報道ベースで年商は約75億ドル、従業員は約6万人、100カ国以上で事業を展開しているとされます。特筆すべきはその「代理店網」の強さです。

流通・自動車・消費財の垂直統合
同グループは「世界最大級のGM(ゼネラルモーターズ)ディーラー」とされ、建機大手キャタピラーの主要ディストリビューター(Mantrac)としてアフリカ各国をカバー。加えてエジプト国内のマクドナルド運営(Manfoods、200店超)、大手スーパー「Metro/Kheir Zaman」、ロンドン拠点の投資会社Man Capitalまで擁します。基幹ブランドの「入口」を押さえる構造が、この一族の強みです。
一族の億万長者たち
モハメド・マンスール氏(約33億ドル/2024年にナイト叙勲、元運輸大臣、米MLSのサンディエゴFCを保有)、ユセフ・マンスール氏(約13億ドル/消費財・小売)、ヤシーン・マンスール氏(約12億ドル)が名を連ねます。ヤシーン氏は上場不動産大手パーム・ヒルズ(Palm Hills)の会長でもあり、一族の触手は不動産にも伸びています。

「上場チャンピオン」を押さえる ── EGXを支配する名前たち

財閥を語るうえで、非上場の一族企業だけでなく、エジプト証券取引所(EGX)に上場する巨大企業群も見逃せません。Forbesによれば、2026年1月末時点でEGXの時価総額は前年比40%超増の約673億ドルまで回復し、上位50社が市場全体の約83%を占めるとされます。その顔ぶれは、投資家にとって「エジプトの実体経済カタログ」そのものです。

CIB(商業国際銀行)|金融の中核
時価総額約96億ドルで、EGX最大の上場企業とされる民間銀行。外国人投資家がエジプト株にアクセスする際、事実上の基準銘柄として位置づけられています。
タラート・ムスタファ・グループ(TMG)|不動産の王者
エジプト最大の上場不動産デベロッパー。総資産はE£4,362億(2025年)、従業員は10万人超とされます。旗艦プロジェクト「マディナティ(Madinaty)」は約8,000フェダンの敷地に最大70万人が居住する設計。2025年上半期の契約販売額はE£2,110億(前年比+59%)と報じられ、需要の強さを示しています。会長のヒシャム・タラート・ムスタファ氏はEGX個人株主番付の首位級に位置します。
エルスウェディ・エレクトリック|電機・インフラの輸出企業
1938年創業のエルスウェディ家が中核。ケーブル・電機を軸に、15カ国31拠点で生産し、110カ国以上へ輸出するとされる産業輸出企業。直近12カ月売上は約60億ドル規模と報じられ、エジプトの電力インフラを支える存在です。
エッズ・スチール(Ahmed Ezz)|鉄鋼
北アフリカ最大級の独立系鉄鋼メーカーとされ、建設・インフラの景気サイクルを映す「体温計」的な銘柄。アフメド・エッズ氏が約66%を握る支配的オーナーです。
ハッサン・アラム・ホールディング|建設・EPC
1936年創業の建設大手。新行政首都(New Administrative Capital)のR5住宅地区や、カイロと新首都を結ぶモノレール建設など、国家的メガプロジェクトの中核を担うとされます。
その他の有力ファミリー企業
自動車製造ではGBコープ(旧ガブール/年産15万台規模、エジプト最大級)、カーペットでは世界有数の機械織メーカーとされるオリエンタル・ウィーバーズ(ファリド・ハミス家)、投資銀行ではEFGホールディング(旧EFGハーミス)などが、それぞれの業界で存在感を放っています。

「2つの一族」に投資する ── EGX上場企業リスト

ここまで読まれた方の多くが、こう思われるはずです。「では、その一族の企業に自分も投資できるのか?」——答えは「イエス」です。サウィリス家・マンスール家が関わる企業の一部は、エジプト証券取引所(EGX)に上場しており、エジプトの証券口座を開設すれば、日本にいながらこれらの銘柄を売買できます。以下が、二大一族に紐づく代表的なEGX上場企業です。

オラスコム・コンストラクション(EGX:ORAS)|サウィリス家
ナシフ・サウィリス氏が家族オフィス等を通じ約44%を握る建設・EPC大手。ギザのグランド・エジプト博物館などを手がけ、受注残高は2026年入り時点で140億ドル超とされます。なお主上場は2025年9月にアブダビ(ADX)へ移りましたが、EGXにも重複上場が維持されています。
オラスコム・インベストメント・ホールディング(EGX:OIH)|サウィリス家
ナギーブ・サウィリス氏が支配株主を務める多角化持株会社。エジプト・アフリカの高成長セクターへの投資ビークルとして位置づけられます。
オラスコム・デベロップメント・エジプト(EGX:ORHD)|サウィリス家
サミフ・サウィリス系が実質的な筆頭株主とされる観光・不動産開発企業。紅海のエル・グーナをはじめとするリゾート destinations を保有・運営します。
パーム・ヒルズ・ディベロップメント(EGX:PHDC)|マンスール家
ヤシーン・マンスール氏が創業・会長を務め、約13%を保有するとされる大手不動産デベロッパー。住宅・商業・リゾートの複合コミュニティを展開しています。マンスール・グループの中核(GM・キャタピラー・小売)は非上場のため、一族への上場エクスポージャーとしては本銘柄が代表格です。
補足:EGX外に上場する銘柄もある
ナシフ氏が率いる肥料大手OCIグローバルはユーロネクスト・アムステルダムに上場しており、EGXの証券口座では直接売買できません。一族の全事業がエジプト市場で買えるわけではない点は、押さえておくべき実務ポイントです。
エジプト証券口座があれば、これらに投資できます
上記のような二大一族関連銘柄、そしてCIB・TMG・エルスウェディといった上場チャンピオンへの投資は、いずれもエジプトの証券口座を通じて可能です。弊社では、エジプトの証券口座を「郵送」で開設できるサポートを行っています。現地渡航が難しい方でも、日本にいながら口座開設の手続きを進められます。エジプト経済の中核を担う企業に、財閥の地図を踏まえて投資したい——そうお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

投資家にとって、この地図はなぜ重要か

ここで、私たちが日頃お伝えしている新首都の話に接続します。新行政首都を実際に「建てる」のがハッサン・アラム、「電化する」のがエルスウェディ、「分譲する」のがTMG。つまり、弊社がご案内するエジプト不動産や現地の成長ストーリーは、これら財閥の事業活動と分かちがたく結びついています。財閥の顔ぶれを知ることは、投資対象の「川上」と「カウンターパーティ」を知ることに等しいのです。

加えて2026年のエジプトは、外貨準備の積み上がりとポンドの落ち着き、そしてEGXの40%超の反発に象徴されるように、投資家心理が回復基調にあるとされます。財閥企業の株価と業績がこの回復を牽引している点は、マクロの数字だけを追う投資家には見えにくい「実体の裏付け」と言えるでしょう。

エジプト経済を理解する最短の道は、GDPの数字ではなく「一族の名前」を覚えることだ。新首都を建て、電化し、分譲するのは、いずれも数えるほどの家系である。
⚠ 留意すべきリスク
富と経済活動が少数の一族に集中する構造は、成長の効率性と裏腹に、特定企業・特定人物への依存リスクをはらみます。一族企業はガバナンスや事業承継、政策との距離感が業績に影響しうる点に注意が必要です。また、本コラムの純資産・売上・時価総額・持株比率・ティッカー・上場先は各種公開情報(Forbes等)に基づく時点情報であり、為替や株価の変動、上場形態の変更、開示のタイムラグにより実態と乖離する可能性があります。個別銘柄・個別案件への投資判断は、必ず最新の一次情報と専門家の助言に基づいて行ってください。
💡 投資家としての視点
財閥の地図は、エジプト投資における「羅針盤」になります。どの一族がどのセクターを押さえているかを把握すれば、不動産の分譲主体、インフラの担い手、株式のコア銘柄が一本の線でつながって見えてきます。集中構造は確かにリスクですが、同時に「厚みのある担い手が国家プロジェクトを支えている」という安定材料でもあります。数字の裏側にある“顔”を知ることが、新興国投資で足元をすくわれないための第一歩です。弊社では、この地図を踏まえた具体的な物件・口座・法人スキームのご相談を承っています。
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関連サービス

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出典

・Forbes Middle East「The World’s Richest Arabs 2026」「Egypt’s 50 Most Valuable Companies 2026」

・Forbes / Forbes Africa Billionaires 2026

・Billionaires.Africa「The 30 richest people on the Egyptian Stock Exchange 2026」「Egypt’s richest businessmen」

・各社公開情報(Mansour Group、Talaat Moustafa Group、Elsewedy Electric、GB Corp 等)/Wikipedia

※純資産・売上・時価総額は公開情報に基づく推計値であり、変動する可能性があります。

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