Vol.1950:「グレードAだから上がる」で買う人ほど、損をする

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN | DUBAI

先日、ビジネスベイの更地に立って、正面をぼんやり眺めていました。すぐそこに駅。歩いて2分もかかりません。この一等地に、ドバイでも最上位クラス、いわゆる「グレードA」のオフィスビルが建ちます。

案内してくれた担当者は、こう言いました。「グレードAです」「区画は109しかありません、希少です」「2031年には、確実に値上がりします」。……正直に言います。私はこの手の言葉を、あまり信じていません。

※現地・ビジネスベイの様子は、記事末尾の動画でもご覧いただけます。

読了時間
約8分
対象読者
ドバイ・海外不動産に関心のある個人投資家、法人オーナー。利回りを「作る」発想に興味のある方。
この記事で分かること
① 空室率6.1%まで締まったドバイのオフィス市場の今
② 「値上がり待ち」ではなく、シェアオフィス化で利回りを底上げする発想
③ 法人・ファンドを絡めた保有の考え方と、見落としがちな注意点

「2031年に必ず上がる」。そう言われて、信じますか?

私はもともと、不動産ファンドの出身です。ビルを一棟まるごと買って、どう価値を上げて、どう出口を取るか。そればかり考えてきた人間です。だからこそ、「グレードAだから」「数が少ないから希少です」という売り文句を聞くと、つい身構えてしまいます。

もちろん、嘘ではないと思います。立地は申し分ない。駅は目の前。ビルの質も高い。値上がりする期待値も、十分に高いでしょう。でも、それはあくまで「完成したときに、うまくいけば」の話です。完成は約4年後の2031年。4年後の相場なんて、誰にも分かりません。

だから私は、投資を実行するときは、いつも逆から考えます。「値上がりしなかったら、どうなるか」。これを前提にして、それでも回るのか。そこを計算してから動く。値上がりは、あくまでボーナスです。本体ではありません。

では、値上がりを抜きにして、このオフィスは「貸して回る」のか。ここからが本題です。

まず、ドバイの「オフィス不足」は本物です

住宅の話はよく聞くと思います。ドバイは2025年だけで15万戸を超える住宅が新規発売され、「供給過剰では」という声もあります。ところが、オフィスはまったく逆です。質の高いオフィスは、むしろ足りていません。

数字で見てみましょう。私が現地で感じている「締まってきたな」という感覚は、データにもはっきり出ています。

オフィス空室率(ドバイ全体)
6.1%(1年前は7.7%)。グレードB・Cまで含めても、空室はどんどん埋まっています。
グレードA賃料の伸び
前年比 +26.2%。賃貸契約の登録件数も +24.6%。借りたい企業が、実際に動いています。
ビジネスベイのグレードA賃料
年 220〜320 AED/sqft 前後。プライム帯は 320〜450 AED/sqft まで上がっています(2022年は 200〜280 でした)。
プライム物件の空室率
DIFC・ダウンタウン・ビジネスベイといった一等地では、5%未満。良い場所ほど、空いていません。

なぜ、ここまでオフィス需要が強いのか。ひとつ、日本人には分かりにくい事情があります。

ドバイで「メインランド(UAE国内向けに事業をする形態)」の会社を登記する場合、業種によっては「ちゃんと物理的なオフィスを構えていること」が要件に入ってきます。そして、これが法人の銀行口座の開設にも絡んできます。日本のように「シェアオフィスでOK」「バーチャルでOK」とはいかない場面が、まだ多いのです。

つまりドバイのオフィスは、見栄えの問題ではなく、「会社を存在させるためのインフラ」という側面がある。だから需要が落ちにくい。私はそう見ています。

ことばメモ:グレードA/メインランドとフリーゾーン
グレードAとは、オフィスの「格付け」の最上位。ミシュランでいう星付きの最上位レストランのようなイメージです。ホテルのようなレセプション、車の鍵を預ける「バレット」、フロアを絞って止まるエレベーターなど、働く人が心地よく使える設備が揃っています。

メインランドはUAE国内で広く商売ができる形態、フリーゾーンは特定区域での優遇(後述の税制メリットなど)を受ける形態。どちらを選ぶかで、必要なオフィスの条件も変わってきます。

そもそも、これは「区分」で買えるオフィスです

話を進める前に、大事な前提をひとつ。今回のプロジェクトは、ビルを1棟まるごと買うものではありません。

ポイント ── フロア・区画単位で買える“区分販売”
日本でオフィスビルを買うというと、ふつうは「1棟ごと」。何十億という世界で、個人にはなかなか縁がありません。

でも今回は違います。フロア単位、さらに区画単位(およそ100平米程度)から購入できる“区分販売”のオフィスです。全体で109区画のみ。分譲マンションを一室買う感覚に近いと思っていただくと分かりやすいはずです。1棟を買うほどの資金がなくても、都心一等地のグレードAオフィスのオーナーになれる。ここが、個人投資家や中小法人にとっての“入り口の広さ”です。
ことばメモ:区分(区分所有)
1棟のビルを、フロアや部屋といった“区画”に分けて、それぞれを別々の人が所有する形。分譲マンションと同じ仕組みです。1棟買いに比べて少ない資金で参加でき、売るときも区画単位で動かせる、という身軽さがあります。

ここからがプロの発想。「ただ貸す」で終わらせない

需要が強いなら、買った区画に普通に借り手をつけて貸すだけでも、それなりに回るでしょう。でも、それだと「普通」で終わってしまいます。私がもったいないと思うのは、ここからです。

今回のような新築オフィスは、たいてい「スケルトン」、つまり内装が入っていない“ガワ”の状態で引き渡されます。買った人が、自分の区画の中身を作り込む。ここに、利回りを底上げする余地が生まれます。

ことばメモ:スケルトン渡し
コンクリートの箱の状態で引き渡すこと。壁・床・配線などは買主側で工事します。手間はかかりますが、「どう仕上げて、どう貸すか」を自分で設計できる、という自由度の高さが魅力です。

私のおすすめは、この一区画を「シェアオフィスとして仕上げてしまう」やり方です。

あなたの区画を一社にまるごと貸すのではなく、その区画の中を、個室やデスク単位に分けて複数の企業に貸す。個室で借りたい会社、デスクだけ借りたい会社、住所だけ使いたい会社(バーチャル)。そういう需要を、ひと区画の中にどんどん詰め込んでいく。こうすると、面積あたりの家賃が全体として底上げされ、利回りが上がっていきます。

これは私が思いつきで言っているのではありません。大手の不動産会社が、昔からやっている王道の手法です。身近な実例が、日本にあります。

日本の実例 ── 東急不動産「ビジネスエアポート」
東横線などでおなじみの東急グループ。その東急不動産が、「ビジネスエアポート(Business-Airport)」という会員制シェアオフィスを展開しています。丸の内・日本橋・青山・新橋・渋谷・新宿三丁目といった都心の一等地を中心に、関東で19拠点(2025年4月時点)。

ポイントは、ビルを一社にまるごと貸すのではなく、質の高いシェアオフィスとして“仕立てて”貸すことで、1棟あたりの収益力を引き上げている点です。「シェアオフィス」と聞くと簡易なものを想像するかもしれませんが、大手デベロッパーが本気で取り組む、れっきとした“運用”なのです。

「ただ貸す」より「仕立てて貸す」。東急は1棟・多拠点という大きな規模でやっていますが、同じ発想は、あなたが買う“ひと区画”のスケールでも、そのまま成り立ちます。しかも、オフィス不足が続くドバイの一等地でやる。条件は、むしろ日本より恵まれているかもしれません。

そして、ドバイにはこの手法を後押しする追い風があります。

フレキシブルオフィス需要の広がり
サービスオフィスなどの柔軟な区画は、ドバイのオフィス総量の約1.5%、運営者は150社超まで増えています。世界ではテナントの58%超が、すでにフレキシブルな空間を使っているというデータもあります。ドバイに来る海外企業の多くは「資金はまだ厳しい」「家賃は抑えたい」。だからこそ、個室やデスク単位で借りられる形が、強く求められています。

海外から来たばかりの会社にとって、内装工事は重荷です。工事費は1平方フィートあたり150ドルを超えることも珍しくない。すぐに使える完成済みの個室があれば、初日から仕事が始められる。借り手が面倒だと思うことを、オーナー側が肩代わりしてあげる。その対価として、家賃を少し高くいただく。これがシェアオフィス化の本質です。

値上がりを待つのではなく、
自分の手で家賃を底上げして、価値を作りにいく。
値上がりは、そのあとに付いてくるオマケです。

出口は「転売」だけではない。むしろ売らない

家賃を底上げすると、面白いことが起きます。賃料が上がれば、それに見合った売却価格が付きやすくなる。単純な転売で差益を狙うより、まず賃料を上げ、価値を高めてから、売るなら売る。この順番です。

でも、私がもっと大事だと思っているのは、「売らなくてもいい」という状態を作ることです。しっかり仕立てたシェアオフィスから、毎月キャッシュフローが入り続ける。相場が良ければ売ればいいし、良くなければ持ち続けて家賃を受け取ればいい。売却ありきでないから、相場に振り回されずに済む。これが、値上がりを前提にしない買い方の強さです。

そして、ここに法人とファンドを絡めると、もうひとつ角度が増えます。

海外不動産を「個人で、ただ持っているだけ」だと、関連費用を経費にするのは簡単ではありません。ところが、法人で保有し、シェアオフィスの運営・管理まで“事業として”行うと、運営に関わる費用を損金として計上できる余地が出てきます。「投資の部分」と「節税の部分」を、二階建てで組める、ということです。

⚠ 留意点
・完成は約4年後。竣工までの相場変動・為替変動・工期遅延・開発会社の信用リスクは残ります。利回りも「想定」であって、確約ではありません。
・「必ず値上がりする」という類の説明は、根拠が薄いと考えてください。本稿の試算も、値上がりゼロを前提に成り立たせるのが基本姿勢です。
・損金算入の可否は、事業としての実態・目的・その時点の税制によって変わります。日本・UAE双方で取り扱いが異なり、要件も年々変わります。節税を主目的にした形だけの仕組みは否認されるリスクがあり、必ず税理士など専門家に個別確認をしてください。
・UAEは2023年6月以降、年間課税所得37.5万AEDを超える部分に9%の法人税が導入されています。フリーゾーンの「適格所得0%」も、要件を満たした場合に限られます。
💡 投資家への視点 ── 私ならこう考えます

私がこの一区画を買うなら、まず「売却」の話は一度忘れます。頭の中から消します。そのうえで、「シェアオフィスとして仕上げたら、値上がりゼロでも何%で回るか」を先に計算します。そこが合格なら、はじめて前に進みます。

立地は申し分ない。駅は目の前で、2029年9月にはメトロの新路線(ブルーライン)も開業し、公共交通はさらに強くなっていきます。ビルの質も申し分ない。そこまで考えて設計すれば、そうそう大きく負ける投資にはならない。私はそう見ています。

結局いちばん危ないのは、「グレードAだから」「希少だから」「必ず上がるから」という言葉に乗って、出口も運用も考えずに買ってしまうこと。立地や格付けは“前提”であって、“戦略”ではありません。戦略は、買ったあとに自分で作るものです。

私は以前から、ずっと同じことを申し上げています。日本円だけに資産を置いておくことのリスクです。円の価値が揺れる時代に、円の一極集中は、それ自体がひとつの“賭け”になってしまっている。だからこそ、外貨建てで、しかも値上がり頼みではなく自分で現金を生み出せる資産を、一部でも持っておく。

ドバイの一等地オフィスを、ただ眺めて「上がるかな、下がるかな」と祈る対象にするのか。それとも、自分の手で利回りを作りにいく道具にするのか。同じ物件でも、まったく別の投資になります。あなたなら、どちらを選びますか。

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出典

・ドバイ オフィス市場レポート(JLL/Savills/Knight Frank)2025〜2026年
・Dubai Office Market Grade A 2026 Analysis(Polaris Corporate Services)2026年
・UAE サービスオフィス市場(Cushman & Wakefield Core)2025年
・オフィス賃料・空室率動向(Arabian Business/Khaleej Times 報道)2026年
・ドバイメトロ ブルーライン開業予定(RTA 発表)2029年9月
・UAE法人税・フリーゾーン課税制度(UAE連邦税務庁 FTA)2023年6月〜

累計不動産取引数608件

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