
週末にタンザニア・ザンジバル島を視察してきました。結論から言えば、ここは「観光地」としてではなく「インド洋のラグジュアリー不動産市場の“ごく初期”」として見る価値がある島です。観光客はこの10年でおよそ2.4倍、空港はすでに設計容量を超え、外国人でも99年リースで不動産を取得できる——それでいて超高級ブランドはまだ薄い。本稿では、私が現地で確かめた事実と、実際に売りに出ているホテル案件までを、リスクとあわせて整理します。
目次
ザンジバルとはどんな場所か
ザンジバルは、タンザニア本土の沖合、インド洋に浮かぶ半自治領の群島です。中心となるウングジャ島(通称ザンジバル島)は、かつて香辛料交易とアラブ・アフリカ文化の交差点として栄え、中心市街のストーンタウンはユネスコ世界遺産に登録されています。そして何より、この島の資産価値の源泉は「海」です。
北部のヌングウィ、東海岸のパジェやジャンビアニに広がるのは、粉のように白い砂浜と、遠浅で透明度の高いターコイズブルーの海。干潮時には沖合まで砂州が現れ、伝統的な木造帆船「ダウ船」が浮かぶ光景は、モルディブやセーシェルに勝るとも劣りません。富裕層向けリゾートの「絵になる」条件を、この島は天然で備えています。
観光客数はこの10年でどう伸びたか
ザンジバル政府統計(首席政府統計官室・ザンジバル観光委員会)によると、国際観光客の入込は次のように推移しています。コロナ禍の落ち込みを挟みつつ、力強いV字回復を経て、現在は過去最高を更新し続けています。
2017年:433,474人
2018年:520,809人
2019年:538,264人(コロナ前ピーク)
2020年:260,644人(コロナ禍)
2021年:394,185人
2022年:548,503人
2023年:638,498人
2024年:736,755人(前年比 +15.4%)
2025年:917,167人(前年比 +24.5%・過去最高)
2026年1月:100,216人(前年同月比 +19.2%)
2016年の約37.6万人から2025年は91.7万人へ、およそ2.4倍。ヨーロッパ(イタリア・ドイツ・フランス・ポーランド等)が全体の約7割を占め、平均滞在は約8泊——インド洋の平均を上回る長期滞在型です。政府統計では、観光はザンジバルGDPのおよそ3分の1に達したとされています。需要のエンジンは、明確に回り続けています。
空港は「設計容量」をすでに超えた
玄関口のアベイド・アマニ・カルメ国際空港(ZNZ)は、国際線ターミナル3を2020年に開業(運用開始2021年)。事業費は約7,040万ドル、施工は北京建工集団(BCEG)で、設計上の処理能力は年間150万人でした。ところが——2025年の同空港の旅客数はおよそ269万人。すでに国際線ターミナルの設計容量の約1.8倍をさばいている計算で、繁忙期の混雑は常態化しています。
「需要にインフラが追いついていない」状態は、次の投資を呼び込みます。空港側はターミナルの増設・改修を継続。加えて、本土との海上輸送を担うマルフビ旅客・RoRoフェリーターミナル(年間300万人規模、フェーズA約2.5億ドル、2024年11月着工・2027年完成予定)も動き始めています。アクセス能力の拡張は、中期の来訪者数と宿泊需要をさらに押し上げる方向に働きます。
外国人でも不動産を取得できる──価格はまだ安く、上昇基調
ザンジバルは、コンドミニアム法(2010年)により、外国人でも区分所有(ストラータ・タイトル)で住戸を取得できる制度を持ちます。実務上は、ザンジバル投資促進庁(ZIPA)が承認したプロジェクト内で、99年リースホールド(33年ブロックで更新)として保有するのが標準的な形です。さらに、10万ドル以上をZIPA承認案件に投資すると、本人・配偶者・子(最大4名)を対象とするクラスC居住許可の申請資格が得られます。
ここは誤解のないよう明記します。不動産取得は「居住許可」につながり得ますが、市民権(パスポート)を付与するものではありません。「ゴールデンビザ」と紹介されることもありますが、実態は不動産投資に紐づく居住許可制度です。
価格水準はどうか。取引コストは印紙税1%・年次固定資産税0.1%が外国人・現地人共通で、諸費用を含めても概ね物件価格の3〜5%程度に収まります。価格は、島全体で年5〜7%、ヌングウィ・パジェ・ジャンビアニなど優良ビーチフロントでは年10〜15%の上昇が報告されています。市場全体の価格指数は2019年を100とすると2024年で約160の水準。ストーンタウンのアパートで概ね1,000〜1,500ドル/㎡、ビーチフロントの高級ヴィラで2,400〜2,800ドル/㎡前後——モルディブやモーリシャスの一等地と比べれば、まだ明確に「安い」レンジです。ビーチフロントの表面利回りは12〜15%との試算もあり、外国人買い手はすでに取引の約3分の1を占めています。
発表から8年、リッツ・カールトンすら開業していない。それは裏を返せば、この島では「超高級ブランドの供給がまだ薄い」ということでもある。
超高級ブランドが「まだ薄い」インド洋
正確に書きます。ザンジバルに国際的なラグジュアリーブランドが皆無なわけではありません。ストーンタウンにはパーク・ハイアット(2015年開業)が営業しており、これが現状の主力国際ブランドです。しかし、その先——アマン、フォーシーズンズ、ローズウッドといった超弩級(ちょうどきゅう)のフラッグシップは未進出です。象徴的なのがリッツ・カールトン。2017年に90室のオール・スイート&ヴィラ・リゾートとして進出が発表され、2021年開業予定とされましたが、現在に至るまで開業していません。
一方、インド洋のライバル——モルディブ、セーシェル、モーリシャス——は、これら超高級ブランドで事実上飽和しています。つまりザンジバルは、同じインド洋のリゾート地でありながら、ブランド浸透カーブの「周回遅れ」にいる。裏を返せば、供給がまだ埋まっていない=ブランディングによる付加価値創出の余地が、まだ前方に残っているということです。
ホテルを「丸ごと買って」リブランドするという発想
この構図を踏まえると、面白いのは「区分住戸を1つ買う」より一段踏み込んだ戦略です。すなわち、既存の中小ホテルを丸ごと買収し、リノベーション・増築のうえでブランディング(自社ブランド化、あるいは国際オペレーターへの運営委託)して、価値を引き上げるアプローチ。ザンジバルでは、驚くほど手の届く価格帯で、しかもビーチに面したホテルが売りに出ています。
ただし、広告で頻出する「プライベートビーチ」という表現には注意が必要です。広告上の“private beach”と、海岸線そのものを法的に私有できることは別問題です。ザンジバルの2015年環境法は海岸緩衝帯を保護区として扱っており、海岸の公的利用権は残ります。「敷地が浜に直結している」ことと「浜を独占できる」ことは、購入前に必ず切り分けて確認すべき論点です。
実際に売りに出ているホテル案件
現在売却中の案件から、ビーチフロントかつ外国人でも検討余地のあるものを整理しました(金額・室数・土地面積・ビーチ幅は掲載情報ベース。取得スキーム・権利関係・稼働状況は個別DDが前提です)。
12室/土地約4,500㎡/ビーチ約60m。プール・ビーチフロントレストラン付き。土地規模と価格のバランスが良く、運営しながら増築を狙いやすい入口案件。
8室+4BRプライベートヴィラ/土地約2,500㎡/ダイレクトビーチ約50m。小規模ゆえ、超高級ブティックリゾートへのリブランド向き。
12室+ヴィラ/インフィニティプール・発電機・井戸など運営設備が概ね揃うターンキーに近い案件。
16室/ダイレクトビーチ。稼働中ホテル。
14室/土地10,000㎡(1ha)/ビーチ約100m。「ホテルを買う」というより「一等地1haをホテル付きで取得する」案件。増床余地の見極めが最大の論点。
20室+建設中7室。デラックスアパート・ビーチヴィラ・ロイヤルヴィラ等で構成される高級ブティックリゾート。
51室+24ヴィラ/プライベートビーチ約50m。大型ホテル案件。
27ユニット/土地15,500㎡/ビーチ約107m。プール4面・テニス/パデルコート等を備え、最低24室程度の増築余地。本格的な大型高級リゾート。
まとめ
ザンジバルは「島を買う」話ではなく、「インド洋ラグジュアリー市場のブランド浸透が始まる前段階を、時間をかけて取りに行く」投資だと私は捉えています。観光・空港・制度・価格の四拍子が上向きで、しかも超高級ブランドの供給はまだ薄い。中小ホテルの買収→リブランドは、その空白に対して能動的に付加価値を作る一手になり得ます。ただし後述のとおり、権利・環境・事業の各リスクは相応に重く、分散ポートフォリオの一部として、事業性デューデリジェンスを前提に検討すべき領域です。
⚠ 検討前に必ず確認すべきリスク
・「プライベートビーチ」の広告表現と、海岸線の法的私有は別問題。2015年環境法で海岸緩衝帯は保護区(建築にはEIA等が必要)。
・2024年の世界銀行調査では、サンプル120区画のうち約42%(51区画)に権原(タイトル)関連の問題が確認された。登記前の口頭・側面取引は法的効力を持たない。
・取得はZIPA承認+99年リースホールドが前提(フリーホールドではない)。フルな登記簿調査(uhakikisha)と権利瑕疵の解消を完了前提に。
・不動産取得で市民権は得られない(居住許可のみ)。
・高級賃貸は一部で供給過剰リスク。現地通貨建てローン金利は概ね16〜17%、TSh為替リスクも伴う。
・ホテル買収は、運営ライセンス・雇用・オペレーター選定・増床の建築規制など、不動産に加えて「事業」のリスクを伴う。
💡 投資家としての視点
数字(利回り・上昇率)は単一の点ではなくレンジで捉え、需要(観光・空港)とリスク(権利・環境・事業)を両にらみで評価するのが実務です。ホテル買収案件は「割安な取得価格」だけで判断せず、増床余地・建築規制・想定稼働率・オペレーター確保・出口までを一体でDDすること。ポートフォリオ全体の中で、流動性が低く時間軸の長い実物資産としてサイズを決めるのが健全です。
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出典
・首席政府統計官室(OCGS Zanzibar)/ザンジバル観光委員会(ZCT)「Zanzibar Annual Tourism Report」「Tourism Statistical Release」
・The Citizen(Tanzania)/TanzaniaInvest:ザンジバル観光客数(2024年 736,755人/2025年 917,167人 ほか)
・Wikipedia/Digital Logistics Capacity Assessments:アベイド・アマニ・カルメ国際空港(ターミナル3の設計容量・2025年旅客数)
・Zanzibar Passenger and RoRo Ferry Terminal Project(マルフビ・フェリーターミナル計画)
・ZIPA/コンドミニアム法(2010年)/登記法・環境法(2015年):外国人の不動産取得制度、居住許可、印紙税・固定資産税
・World Bank(2024年 土地区画調査:権原関連の問題)
・Vela Zanzibar/The Africanvestor/Zanzibar Lux Properties 他:価格・利回り・上昇率(レンジは各社推計)
・Marriott International/Hyatt Hotels:リッツ・カールトン(2017年進出発表)、パーク・ハイアット・ザンジバル(2015年開業)
・売却案件情報:BeForward Homes/Jiji.co.tz/Zanzibar Lux Properties/zrea.net 等の掲載情報
・画像:Wikimedia Commons(ヌングウィ=ObonyoML/CC BY-SA 4.0、ストーンタウン=© UNESCO/CC BY-SA 3.0 IGO、ポングウェ=Nino Verde/CC BY-SA 3.0)
