
同じ端末が、ドルではほとんど上がらず、円では約8割上がる——この差の正体を、米国・日本・エジプトの3か国で追いかけます。
2026年9月9日(米国時間)、Appleは新CEOジョン・ターナス氏が主導する初のイベント「Surprise and Shine」を開催し、iPhone 18 Pro/iPhone 18 Pro Maxと、同社初の折りたたみ端末iPhone Duoを発表しました。なお、標準モデルの無印iPhone 18は今回は登場せず、2027年春へ延期されています。秋のイベントをProシリーズと新カテゴリだけで構成したのは、Appleとして異例です。
発表のたびに日本では「iPhoneが高すぎる」という声が上がります。ですが、その”高さ”は本当にAppleの値上げなのでしょうか。数字を並べると、まったく別の景色が見えてきます。
目次
日本と米国、”同じiPhone”の値札はこれだけ違う
まず、今回発表された3機種の米国価格(税抜)と日本価格(税込)を並べます。
1ドル=約154円(2026年9月時点)で単純換算すると、たとえばiPhone 18 Proの1,199ドルは税抜で約18万5,000円。ここに日本の消費税や、Appleが為替変動を吸収するための上乗せが加わり、219,800円という値札になります。米国が安く「見える」のは、表示価格に州の売上税が含まれていないという事情もあります。とはいえ、日本の価格がドルの実力より重く感じられるのは事実です。その理由は、次の5年分の推移がはっきり示してくれます。
ドルでは”それほど”上がっていない──5年分の価格を並べる
iPhone Pro(無印Pro)の米ドル建てスタート価格を、2021年から時系列で見てみましょう。
2022 iPhone 14 Pro:999ドル
2023 iPhone 15 Pro:999ドル
2024 iPhone 16 Pro:999ドル
2025 iPhone 17 Pro:1,099ドル
2026 iPhone 18 Pro:1,199ドル
ドル建てでは、2021〜2024年まで4年間999ドルで据え置き。むしろ米国の高インフレ期に、Appleは値段を上げずに実質的な負担を吸収していました。上がり始めたのは直近2年で、5年トータルの上げ幅は999→1,199ドルの+20%。ストレージが128GB→256GBへ倍増したことを踏まえ、同じ256GB同士で比べれば上昇はさらに小さく、およそ+9%にとどまります。
ところが円建てでは、話がまったく変わります。
2026 iPhone 18 Pro:219,800円
5年間で+97,000円(+79%)
ドルでは+20%、円では+79%。この落差を生んだのが為替です。2021年秋の為替は1ドル=約110円でしたが、2026年9月時点では約154円。およそ40%の円安が進みました。ドル建て価格の緩やかな上昇に、この40%規模の通貨の目減りが掛け算されて、円建て+79%という数字が出来上がります。値上げそのものより、円の弱さが効いているのです。iPhoneは、私たちの資産が世界に対してどれだけ縮んだかを毎年見せてくれる「体温計」のような存在といえます。
エジプトで買うと、日本より高い──関税38.5%の壁
では、通貨がさらに弱いエジプトでは、同じiPhoneはいくらになるのでしょうか。iPhone 18 Proはエジプトでの公式価格がまだ発表されていないため、直近で公式代理店Trade Lineが提示したiPhone 17 Proの価格で見てみます。
米国のiPhone 17 Proは1,099ドル。現地通貨に換算(1ドル≒50EGP)すると本来は約5万5,000EGP相当ですが、実際の公式価格は86,500EGP。差額のおよそ6割が、関税・付加価値税・流通コストです。なぜここまで乗るのか。答えは関税にあります。
エジプトは2025年初め、「Egypt Makes Electronics(エジプトは電子機器をつくる)」という国家方針のもと、携帯電話の輸入関税を従来の10%から端末価格の38.5%(関税+諸税)へ引き上げました。旅行者が1台まで無税で持ち込めた猶予措置も、2026年1月21日に終了しています。狙いは明確で、①国内製造業の保護と②外貨準備の流出抑制です。かつてエジプトでは市場の9割前後が密輸端末で、政府は年間およそ12億ドル(約600億円)の税収を取りこぼしていたとされます。高関税は、この穴を塞ぎ、同時に「輸入するより、国内でつくった方が安い」状況を人為的につくり出すための仕掛けなのです。
いま、世界の人気スマホは”エジプト製”になりつつある
この関税政策は、すでに目に見える成果を出しています。エジプト政府によれば、15の世界的スマホブランドがエジプト国内で生産を開始し、年産能力は約2,000万台。これは国内需要を上回る規模で、余剰分は輸出に回す計画です。主なプレーヤーは次の通りです。
▶ Xiaomi:6th of October Cityに中東・アフリカ初の工場。年産スマホ100万台+TV30万台、現地部品比率45%
▶ Oppo:ベニスエフに年産450万台規模の工場
▶ Vivo:世界5大メーカーのうちSamsung・Vivo・Oppo・Xiaomiの4社が進出済み
▶ Nokia(HMD):現地SICO Electronicsと連携し新アシュート市で生産
エジプトが携帯電話輸入に費やしていた金額は年間およそ15億ドル。それを国内生産に置き換え、さらにアフリカ・欧州との自由貿易協定(FTA)を活かして輸出拠点へ育てる——これが政府の描く絵です。実際、国内スマホ産業では約1万人の雇用が生まれたとされ、政府は2030年までに輸出額を1,460億ドル超へ引き上げる目標を掲げています。人件費の安さ、拡大する人口、欧州・アフリカ・中東のちょうど中間という地理。エジプトは「アフリカの製造業ハブ」の座を本気で取りにいっています。
Appleも例外ではない?──エジプトが描く「世界のスマホ工場」構想
そして残る大物が、Appleです。世界5大メーカーのうち4社が進出したいま、エジプト政府は”5社目”としてAppleの誘致を公言しています。地場のSICO Electronics会長は「エジプトはApple工場を受け入れるインフラと技術力を備えている」と発言し、政府も技術移転・雇用・輸出増につながるとして働きかけを続けています。
ここは冷静に線を引く必要があります。現時点で、Appleがエジプトでの生産に正式合意した事実は確認されていません。これはあくまで「エジプト政府側の方針・誘致活動」であり、Appleの意思決定ではありません。ただ、Appleがインドやインドネシアなど、各国政府の要請と関税・市場アクセスを天秤にかけて生産地を分散させてきたのも事実です。エジプトが同じ土俵に名乗りを上げていること自体に、投資家として意味があります。
もし将来、エジプトでiPhoneが現地生産されれば、その端末は38.5%の輸入関税の対象外となり、エジプト国内では今よりずっと安く買える可能性が出てきます。さらに、FTAを使ってアフリカ・欧州へ輸出されれば、エジプトは文字どおり「世界のスマホ工場」の一角を担うことになります。もちろんこれは確定した未来ではなく、あくまでシナリオの一つ。しかし、通貨安・高関税・製造業誘致という3点セットが同時に回り始めた国では、「消費地としては高いが、生産・投資の場としては魅力的」という逆転が起きます。日本から見れば遠い話に思えても、この構図こそが新興国投資の入口なのです。
さらにエジプトのような国は、「消費者としては関税で高くつくが、通貨安・人口増・製造業誘致が重なる生産・投資の現場としては別の妙味がある」という二面性を持ちます。身近なiPhoneの価格差を入口に、通貨と関税という2つのレンズで世界を見直すと、日本に居ながら気づけなかった投資機会が見えてきます。
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出典・参考
・ITmedia NEWS/Business Insider Japan/日本経済新聞(iPhone Duo・iPhone 18 Pro価格、2026年9月)
・9to5Mac/MacRumors/TrendForce(iPhone 18 Pro・Duo 米国価格、2026年9月)
・ecoatm/24-7 Wall St.(iPhone Pro 米ドル価格推移 2021–2026)
・Bloomberg/Wise(USD/JPY・EGP/JPY 為替、2026年9月)
・Egypt Independent/Trade Line(iPhone 17 Proエジプト価格、2025年9月)
・The National/NTRA(エジプト携帯電話輸入関税38.5%、Egypt Makes Electronics)
・Egyptian Streets/Arab News/SIS Egypt(エジプト現地生産15社・年産2,000万台・Apple誘致方針)
