Vol.1915:築100年・$1,467/㎡でも「4年償却」──日本法人だけが使えるトビリシ歴史物件の減価償却戦略

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埜嵜 雅治

執筆者埜嵜 雅治

Meti Lux Partners 
代表取締役CEO

MLP INVESTOR COLUMN|ジョージア × 国際税務

「築古=安い」は、日本の常識にすぎません。
日本法人が海外の中古建物を持つと、減価償却は最短4年まで縮む。一方で、築100年でも価格が落ちない街がある——それがトビリシです。
「短期償却」と「値下がりしない築古」を重ねたとき、法人の資産設計はどう変わるのか。実在物件$110,000を題材に、専門家目線で解きます。

読了時間 約8分
対象読者 日本法人で海外不動産・国際分散を検討する経営者/資産家
この記事で分かること ①法人の中古建物「簡便法」償却の仕組みと個人との決定的な違い ②なぜトビリシの築古は価値が落ちないのか ③実在物件$110,000の投資適性とリスク

「4年償却」の正体──簡便法と、個人にだけ効く”損益通算ブレーキ”

日本法人が中古の建物を取得したとき、減価償却の耐用年数は新築時の「法定耐用年数」ではなく、簡便法(かんべんほう)で短く見積もることが認められています。仕組みはシンプルです。

・法定耐用年数を全部経過した建物:法定耐用年数 × 20%
・法定耐用年数を一部経過した建物:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
※1年未満は切り捨て、最短2年(国税庁 タックスアンサー No.5404)。

よく語られる「築古は4年で落とせる」は、この式に木造(法定耐用年数22年)を当てはめた結果です。22年 × 20% = 4.4年 → 4年。ただし正確には、”4年”は木造に固有の数字であって、すべての築古が4年になるわけではありません。構造ごとに着地が変わります。

木造・住宅用|法定22年

全部経過なら簡便法 4年(定額法償却率0.250)。米国木造住宅を使った古典的な短期償却スキームはこれ。

れんが造・石造・ブロック造|法定38年

全部経過なら簡便法 7年(償却率0.143)。今回のトビリシ旧市街の石造・煉瓦造はこちらに該当する可能性が高い区分。

鉄筋コンクリート造|法定47年

全部経過でも簡便法 9年(償却率0.112)。新築RC(47年・償却率0.022)と比べれば、それでも桁違いに速い。

ここで重要な補足を一つ。この短期償却を狙うのに「築100年」は必要ありません。法定耐用年数(22〜47年)を超えていれば、木造でも石造でもRCでも、すでに”全部経過”の最短ラインに到達しています。築40年でも築100年でも、簡便法の年数は同じ。”100年の壁”は税務上は意味を持たない、というのが実務の勘所です。

では、なぜ「日本法人で」とわざわざ言うのか。ここに、多くの人が見落とす分岐点があります。

2020年度(令和2年度)税制改正で、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が導入され、2021年(令和3年)以後、個人が国外中古建物の多額の減価償却で作った不動産所得の損失は”なかったもの”とみなされ、給与所得や事業所得との損益通算ができなくなりました。かつて富裕層に人気だった「米国築古で最高税率55%の所得を圧縮する」スキームは、個人においては封じられたわけです。

一方、この特例は個人の不動産所得に対する規制です。法人にはこの損益通算ブレーキがかかりません。法人はもともと全所得を通算して課税所得を計算するため、国外中古建物の減価償却費は、本業の利益と相殺して課税所得を圧縮する効果を——制度の範囲内で——今も維持できます。「日本法人で海外の築古を持つ」という設計が語られるのは、この一点に尽きます。

では「古くて、なお価値が落ちない」建物はどこにある?──ジョージアという答え

短期償却の器(うつわ)が用意できても、肝心の建物が値下がりしては本末転倒です。理想は「税務上は”耐用年数切れの築古”、市場では”値下がりしない資産”」という二面性。それを高い水準で満たすのが、コーカサスの小国・ジョージア(首都トビリシ)です。

まずマクロ。ジョージアの実質GDP成長率は2024年に約9.4%2025年も約7.5%と、域内でも屈指の高成長。2026年もADB・世界銀行の見通しで5〜5.5%程度の成長が見込まれています。景気の土台が強い国では、不動産の実需が細りにくい。

住宅価格も裏づけています。ジョージア国家統計局(GeoStat)の住宅価格指数では、トビリシの新築住宅価格は2020年比で約57〜59%上昇。2025年のトビリシ平均は概ね1㎡あたり1,300ドル台で、年率でも数%のプラスを維持しています。2022〜2023年の急騰局面(一部地区で年30%超)からは落ち着き、”投機”から”実需・長期保有”へと市場が成熟しつつある局面です。

築古にとって見逃せないのが、旧ソ連期・戦前建築など”中古・築古”セグメントの底堅さです。トビリシでは新築だけでなく既存住宅の再取引が市場を牽引し、旧市街の歴史的建築はむしろ希少性でプレミアムが付く傾向にあります。取引”件数”には減少局面もありますが、”価格”は崩れていない——ここが日本の築古観との決定的な違いです。

投資家目線での要点は3つ。
(1)外国人でも非農地の不動産を自国民とほぼ同条件で購入可能(所有権ベース)。
(2)長期賃貸のグロス利回りは概ね7〜8%、観光動線の好立地・短期貸し(民泊)では二桁に届くケースも。
(3)通貨・地政学リスクはあるが、価格・利回り・成長率のバランスは新興国のなかでも良好。

実在物件で検証──Sololaki、築100年の”イタリアン中庭”住宅($110,000/$1,467㎡)

では具体例です。旧市街ソロラキ地区(Sololaki, l. Asatiani St.)の一室。「100年前の建物だが、オリジナルのヴィンテージ外観を保ち、荒廃していない」とリスティングに明記された、イタリアン・コートヤード(中庭)様式の歴史的住宅です。一棟ではなく区分の一室(フラット)である点はご留意ください。

物件サマリー(掲載情報ベース)

・価格:$110,000(=1㎡あたり約$1,467)
・面積:75㎡(3室/2ベッドルーム、うち1室は中2階)
・築年数:約100年/リノベーション済み・家具家電付き
・構造区分:石造・煉瓦造の旧市街建築(=日本税務では「れんが造・石造」=法定38年に該当する可能性)
・立地:Old Tbilisi/Sololaki(歴史地区の一等地)

注目すべきは価格です。$1,467/㎡は、トビリシ市全体の平均(1㎡あたり1,300ドル台)を上回る水準。「築100年なのに割安」ではなく、「築100年だからこそ旧市街のプレミアムが付いている」——古さが減価ではなく付加価値になっている好例です。小額(約$11万)ゆえ、”歴史物件を保有して民泊・長期賃貸・将来売却”という実験的ポジションにも向きます。

日本法人で取得した場合の償却イメージ(為替150円換算・建物按分は要設定の概算)。仮に建物按分を約1,500万円とすると——

石造・煉瓦造として簡便法7年:年 約215万円(1,500万円 × 0.143)
・仮に木造相当の4年なら:年 約375万円(1,500万円 × 0.250)
・参考:新築RC(47年)なら:年 約33万円(1,500万円 × 0.022)

同じ1,500万円でも、新築RCの年33万円に対し、旧市街の築古なら年200万円超を経費化できる。キャッシュを失わずに課税所得だけを圧縮する——法人の中古建物償却の本質がここにあります。構造区分(4年か7年か)で結果が大きく変わるため、実務では建物の登記・図面・現地評価に基づく判定が必須です。

「築100年」は税務の条件ではなく、市場の付加価値。
耐用年数を超えた瞬間に償却は最短化し、旧市街ではその古さが値段を支える。

⚠ 検討前に必ず押さえるリスク

構造区分の確定:4年(木造)か7年(石造・煉瓦造)かで償却額が変わる。日本の税務申告では構造・築年の裏づけ書類が必要。
掲載情報の不一致:本物件は「75㎡」と「62㎡+中2階」、価格も「$110,000/$120,000」の記載差が見られる。面積・価格・持分は現地で要確認。
築古特有のコスト:リノベ・修繕・耐震/設備更新の追加費用が利回りを圧迫する場合がある。
流動性と出口:歴史地区の区分物件は買い手が限定されることがあり、売却期間が読みにくい。
為替・地政学:GEL/USD/JPYの変動、地域情勢は評価額・送金に影響する。

💡 投資家視点:この一室をどう位置づけるか

約$11万という小額は、”本命”というよりポートフォリオの実験区画として機能します。①法人で短期償却の器を作り、②値下がりしにくい旧市街の希少性を取り、③民泊・長期賃貸でキャッシュフローを回しながら、④将来の売却出口を待つ。減価償却で圧縮した課税所得は、売却時に取得価額の目減りとして戻ってくる(=課税の繰り延べ)性質がある点まで含めて、”出口とセット”で設計するのが法人スキームの定石です。

最後に。弊社Meti Lux Partnersは、ジョージアで唯一、日本語で会計事務所を運営している会社です。ジョージア現地の会計・記帳サポート、購入後の不動産賃貸管理まで一貫して対応し、さらに日本での税務申告は提携する税理士法人と連携してサポートできます。「現地の会計」と「日本の申告」を分断せず、法人スキームを最初から最後まで一気通貫で設計できるのが強みです。トビリシの築古物件、法人での償却設計、賃貸運用まで——お気軽にご相談ください。

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【出典】
・国税庁 タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」
・令和2年度税制改正「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」(財務省・税理士法人各社解説)
・GeoStat(ジョージア国家統計局)住宅価格指数/Galt & Taggart, TBC Capital トビリシ住宅市場レポート(2025〜2026)
・Georgia Today, Global Property Guide, ExpatHub.GE(2025〜2026)
・物件情報:SS.ge 物件ID 30455736(Sololaki, l. Asatiani St.)
※本記事は情報提供を目的とした一般的解説であり、投資勧誘・税務助言ではありません。個別の判断は必ず専門家にご相談ください。

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